「ラウンドテーブル型」のリーダーシップ

――大正自由教育の系譜に連なる児玉九十先生は、成蹊中学校長から明星学苑を創立しました。

落合 学苑が創設された1923年ころの日本社会では、大正デモクラシーの時代だったとはいえ、同調圧力が現在よりもはるかに強かったことでしょう。詩人の金子みすゞに、小3国語の教科書にも載っている「私と小鳥と鈴と」という作品があります。学苑創設の翌年1924年の作品ですが、「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい」と多様性を賛美しています。金子みすゞは、現代を100年先取りしていたのですね。それでも私は、そこに次のようにもうひとこと加え、この詩を今の時代に活かしたい。すなわち、「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい 組み合わせればもっといい」、というように。

――多様な生徒を組み合わせることで、学校はもっとよくなると。

落合 2025年2月の中央教育審議会答申は、「総合知の時代」が求められている現代では「文理融合が望ましい」と言っています。「組み合わせればもっといい」ということですね。しかし、生徒は大学入試に合わせて、早い段階で文系・理系の選択を迫られるというのが実情です。その際、数学が好きかどうか、計算が速くて正確かどうかが分かれ道になりますが、その弊害は大学入学後に顕在化します。

――どのような点でしょうか。

落合 理系の学生では国語の基礎力や想像力や表現力、社会に関する知識の不足が、文系では論理的思考力の不十分さが指摘されて久しいのです。しかし、「言うは易(やす)く、行うは難(かた)し」で、文理横断・文理融合を各人が実現するのは大変です。いろいろな分野に精通しながら、それらを結び付ける能力を発揮するということなのですから。

 アップルの副社長のジョン・カウチが『Appleのデジタル教育』(かんき出版)という共著を出しています。その中で、いままではDo it yourselfの時代だった。何でも自分自身でやってしまう自前主義が良かった。しかしこれからの時代はDo it with othersだと言っています。他の人とどうやって一緒にやっていくか。専門化が進み、課題が多様化しているのだから、ひとりでは対処しきれない、衆知を集めるべきだと言っているのです。

――どのように解決したらいいのでしょう。

落合 まれに自分一人で何でもできる人がいますよね。私は、そうした人が現れるのを待つより、「ラウンドテーブル型」の討議を重ねるほうが良いと思っています。各自が自分の得意な分野を持ち寄って互いに耳を傾け、組み合わせる工夫をこらせて新しい何かを生み出していく。そういったネットワーク型の知の在り方です。

――ラウンドテーブル型とは、教育手法で言うと、東京大学の教育学部でも行っていた、協力し合いながら情報を共有することで学びを深めるジグソー法ですよね。

落合 まさに、ジグソーパズルのようにパーツを組み合わせていく協調学修法に近い考え方です。その実現のためには、多種多様な専門分野間での対話が必要になります。細かいことまでは分からなくても、方向性は理解できる。例えば、自動運転の実現には、工学や情報学だけでなく、心理学や法学なども必要です。ELSI(倫理的Ethical・法律的Legal・社会的Socialな広がりImplicationsもしくは意味Issuesの頭文字をとった言葉)という考え方ですね。こうした異分野間交流を欠いては、再生医療など最先端の応用分野では身動きが取れなくなります。それが現代なのです。

――現代では、そうした対話を重ねる基礎力を備えた生徒が求められるわけですね。

落合 そう思います。ラウンドテーブルのリーダーは、特定分野のエキスパートであるだけでなく、さまざまな分野を横断したり接続したりすることにチャンスを見出すような“越境力”のある人でなければ務まりません。

――出口である大学進学実績に保護者は期待を寄せますが、MIではその先も見据えた教育を行いたいと。

落合 はい、そうです。MIを、大学受験成功のためのアソシエーション機能に特化したコースとだけ見ないでください。若者に特に大切なのは学びのプロセスです。優れた仲間を見て劣等感を抱くのではなく、“良い参考”として、共感と敬意を持って接しながら、他分野に好奇心を働かせる大人になってほしい。

 社会的背景が一人ひとり異なる以上、人間は完全にはイコール(平等)になれません。中高の多感な時期に学び取るべきは、人間同士がイーブン(対等)であるということです。中高を共にした仲間とのコミュニティーそしてアソシエーションは生涯続きます。すでに始まっている“越境の時代”を歩む人材を育成するために、指導力のある中高教員を増やしたい。明星学苑は、このような大きなビジョンを持ってMIを発足させるのだということをご理解ください。

――“越境の時代”を生きる高校生、世界の有力大学が求めるような高校生になること。“二重の仲間意識”を通して成長していくこと。このような多面性を中高で実現していくことがMIの目指すところであり、生徒に求める資質でもあるということですね。そしてこれら3つのことが「ONE明星」創生の基盤になっていく、と。

「自分の未来をデザインし共創していける人の育成」を中高の教育目標に掲げる明星学苑。創立100年を経て多摩最強の進学コースMIを2026年度に新設する「自分の未来をデザインし共創していける人の育成」を中高の教育目標に掲げる明星学苑は、創立100年を経て多摩地区最強の進学コース「MI」を新設する