伝統が培うコミュニティーと志を同じくするアソシエーション。二つの仲間づくりを新設される「明星Institution中等教育部(MI)」で実現していく伝統が培うコミュニティーと志を同じくするアソシエーション。二つの仲間づくりを新設される「明星Institution中等教育部(MI)」で実現していく

東京多摩地域には大正自由教育の系譜に連なる学校が多く残る。画一的な教育を排したその姿勢は100年を経て時代の先端に立つ。多くは幼稚園や小学校から大学まで擁する総合学園であり、府中市と日野市にキャンパスを構える明星学苑もそのひとつだ。その中高が最難関大学を目指すのはなぜか。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

落合一泰(おちあい・かずやす)
学校法人明星学苑理事長

落合一泰

1951年東京生まれ。東京教育大学附属駒場中学校・高等学校、東京大学農学部卒業。同大学院社会学研究科文化人類学専修課程修士課程修了。ニューヨーク州立大学オールバニ校大学院博士課程修了(人類学博士)。メキシコ国立人類学歴史学研究所、ハーバード大学、マニラ・デラサール大学、ボローニャ大学、マドリード・コンプルテンセ大学などで客員教授・客員研究員を歴任。1997年一橋大学教授。2010年一橋大学理事・副学長。15年明星大学明星教育センター常勤教授。同大学副学長、学長・明星学苑理事、副理事長を経て25年より現職。著書に『マヤ 古代から現代へ』(岩波書店)、『トランスアトランティック物語 旅するアステカ工芸品』(山川出版社)など。

世界の一流大学で学ぶための素地とは

――明星学苑は創立から100年を超える東京多摩地域で多くのファンを持つ名門です。それがいま、なぜ中高に最難関大学を目指す「超進学コース」をつくろうと考えたのでしょうか。

落合 幼稚園から大学まである総合学苑の強みは一貫教育です。小中高の同窓会に名誉会長として出席しますと、建学の精神「和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する」を体現した校訓「健康、真面目、努力」そのものの大勢の卒業生に出会います。その多くは多摩とくに府中市内に生まれ育った皆さんです。

 しかし近年、地元生まれの子どもたちだけでなく、都心などから転入してきた家庭の子どもたちが多数入学するようにもなりました。当然、学校に対する保護者の期待も変化しています。多摩で名の通った伝統ある明星学苑に子どもを預ければ安心という保護者も大勢いますが、有名大学への進学を第一目標にする保護者が増えているのも確かです。そうした新たな期待に応えていけば、従来型の入学者にも好影響が及びます。そこで、多摩から世界のリーダーを輩出することを目標とする「明星Institution中等教育部(MI)」を中高内に設置することにしました。

――進路の多様性の確保が2026年開設のMIにつながるわけですね。

落合 進路の多様性に対応するからといって、明星中高がバラバラになってはいけません。中高については3つのレンジでの目標達成を目指しています。3年単位のショートレンジでは、26年にMIを開設し、それを随時チェックしながら軌道に乗せていくことが目標です。6年単位のミドルレンジでは、その考え方や成果を中高全体に広げ、「ONE明星」をつくり出していくことを目指します。

 そしてロングレンジでは、学苑全体に共通する教育目的になりますが、文系理系の諸分野がつながったり、国内外で多文化が共生したりする、“越境の時代”が進む近未来社会をきちんと生き抜いていける卒業生を輩出する教育体制を40年までに確立することを目標にしています。

――落合先生は文化人類学者として世界各地の大学でも学ばれていますね。

落合 私の専門は古代マヤ文明の末裔(まつえい)である現代マヤ人の文化人類学的研究です。メキシコ最南部のチアパス州の山間部に住み込んで研究しました。メキシコではのべ5年間ほど過ごしました。

 ハーバード大学やフィリピンのデラサール大学、イタリアのボローニャ大学やスペインのマドリード・コンプルテンセ大学などでも研究教育に携わりました。こうした名門大学の優秀な学生には、ある共通性がありました。それは、親切で、仲間の話や見知らぬ人の意見もよく聞き、オープンマインドで包容力があるという点です。人間的に“大人”だということですね。ハーバード大学では、研究アシスタントをつとめるかたわら、12ある2年生以上の学生寮のひとつカークランドハウスで、住み込みのチューターとして2年間過ごしました。

――自分の研究をしながら、寮に暮らす学部生の面倒を見る代わりに、部屋と食事を与えられるという仕組みですね。

落合 はい、そうです。120人ほどの寮生を10人ほどの院生チューターが、個別に相談に乗ったり、学生がアルバイト先に出す推薦状を書いたり、ダンスパーティーや音楽会、高名な教授との食事会などさまざまな企画を立案し実行したりしました。それに加えて、私は寮生のために、食事をしながら日本語やスペイン語を話すふたつの「ランゲージ・テーブル」を毎週開いていました。本当に面白い経験でした。

 ハーバードの学生は、月曜から金曜まで、とにかくよく勉強します。その代わり金曜の夜と土曜は徹底的に楽しみます。MIの生徒の中には卒業後、海外の有名大学に進学する人も出てくることでしょう。そうした環境に身を置く素地をMI在籍中に身に付けてほしい。海外の有力大学で学ぶ学生に求められるものは何か? 私が内側から見てきたこと経験したことを、生徒たちに伝えていきたいとも考えています。