二重の意味を持つ「仲間」
――18歳で成人ですから、高校を卒業したら大人にはなりますが、学ぶためにも“大人”にならないといけないわけですね。先ほどの、ミドルレンジの目標として「ONE明星」をつくることを挙げておられましたが、具体的にはどのようなことでしょう。
[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす) 森上教育研究所代表。1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。
落合 中学高校の6年間は多感な時期です。この大切な時期をいかに充実した時間にするか。大人になるための第一歩は、「自分のことは自分で決めて責任を取る」という自律性や自由を持つことです。
人間は、どうしても他人と比べたり、人に優劣や上下をつけたりして、自分の現在地を確かめたくなるものです。保護者や周りの人たちも、そこをとやかく言ってきます。でもMIの生徒には、こうした比較から離れてほしい。他人は“良き参考”にすればという自意識を持ってほしい。
――そのためにはどうしたらよいのでしょう。
落合 2つの意味での「仲間」を中高時代につくることです。ひとつは、親しい「われわれ」というコミュニティーです。かけがえのない生涯の友人たちを得るということですね。自分は同じ時間と場所と経験と言葉を共にした「われわれ」のひとりだという意識が、自分という存在の根拠になります。明星学苑は100年を超える歴史の中で、多摩では分厚い“明星コミュニティー”を作り上げてきました。先ほども言いましたが、それは素晴らしい「仲間たち」です。
――もうひとつの「仲間」とは。
落合 特定の目的を遂げるために集まりアソシエーション(利害集団)を組む同志たちという意味での「仲間」です。利害集団と聞くと教育にふさわしくないと思う人がいるかもしれません。でも、企業は利潤を得るために社員が組織するアソシエーションですし、同窓会も卒業生が親睦を図り母校に貢献するという志を同じくする人たちのアソシエーションです。普通のことです。
明星学苑は、国内最難関校や海外の有力大学への進学を果たそうと、大学受験に強い志と意欲を持つ生徒たちのアソシエーション機能を革新的に強化するためにMIを設立します。それは国の内外を問わず難関大学に合格して自分の将来を拓くという共通の目標達成に向けて競い合い、励まし合う生徒たちを学苑として応援したいからなのです。
コミュニティーとアソシエーションというふたつの「仲間」意識は相反するものではありません。また、二者択一を迫られるわけでもありません。それらを兼備した人間こそがリーダーにふさわしい。仲間と過ごす日々において、自分の中に自律性の軸を育て、ふたつの「仲間」意識を重ね合わせ生徒たちが集う中高を教職員と共に作り上げる。これこそが、「ONE明星」を築く目的なのです。
――同じくらいの学力で生徒を輪切りにする同質性重視の私立の中高があります。明星はそうした考え方を乗り越える学校の在り方を実現していきたいと。多文化共生という観点ではいかがですか。
落合 MI実現をけん引する井上一紀校長は、早稲田渋谷シンガポール校にその設立準備からかかわり、長きにわたり、かの地で多文化共生の経験を積んできました。井上校長が「いつか第二外国語も開設したい」という夢を語るのは、多文化共生の社会を生き、その価値を知っているからです。私も大賛成です。明星中高には、カリフォルニア生まれの米国人の英語の先生がいます。父親はメキシコシティ出身、母親もメキシコ中部の出身で、家庭ではスペイン語を使っていたそうですが、米国での学校教育はすべて英語だったそうです。
その先生のように多言語を使い分けながら生きているということは、多文化を内に抱えているということです。発想が豊かになる場合が多く、学力の伸び代が大きくなる素地があるということですね。実際、MIT(マサチューセッツ工科大学)では、入学者のかなりの部分を複数言語話者の若者から選抜しているそうです。現代のような“越境の時代”を生き抜く次世代リーダーを育成するには、国際的な経験や多言語思考が必須であると、井上校長は考えています。私も同感です。。







