しかし、この記事では、遭難事故を起こさないためにどうすればよいか、個々に考えてもらえるようにしました。山の中に隠れている危険性を、きちんと意識しながら歩ける登山者・ハイカーになりたいからです。

 ここで、「遭難とは何か」ということをかんたんに押さえておきましょう。

 登山・ハイキングは、山や野原などを自分の足で歩きます。しかし、何らかの事情で歩けなくなり、そのままでは身動きできず危険だと判断したら、第三者に助けを求めて救助要請します。普通、この救助要請したことをもって遭難発生となります。

 歩けなくなる、身動きできなくなる原因としては、病気、ケガ、疲労(体調不良)、悪天候、増水、恐怖心など、いくつも例があげられます。実際に大変多い例として、「道がわからない」というものもあります。

 救助要請をする先は、警察(110番通報)または消防(119番通報)が一番よいのです。しかし、実際に多くの人は、遭難しているという危機意識が弱いのか、まず家族や親しい友人に、連絡して相談しています。この場合は、連絡を受けた家族などから、警察・消防に通報、または救助要請した時をもって遭難発生となります。

どんな「遭難」が多いのか

・1年で3000人以上が遭難

 全国の山で1年間に約3000件の遭難事故が起こり、3300人以上が死亡または救助されています。1日平均にして8.1件という大変な多発状況です。

 全国の山岳遭難統計は、警察庁でまとめており、毎年6月に発表されています。47都道府県の警察から報告されたデータを集計したものです。これを見ると、山岳遭難の基礎知識がわかるのです。その特徴をかんたんに説明しましょう。

・遭難は30年間で激増

 山の遭難は多いのが当たり前なのではありません。30年前の1995年には802件(遭難者数1022人)でした。現在の3分の1以下です。遭難の激増が始まったのはこのころで、以後、現在まで急角度で増加を続けてきました。

 2019~21年は新型コロナの影響から、遭難は一時的に減少しましたが、22年にはコロナ以前よりも多くなり、史上最多となって現在に至ります。