新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、中学生の親御さんも将来のために知っておきたい学部選びの落とし穴について解説します。
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学部の名前だけではわからない?
最近の大学では、従来の「文学部」「経済学部」といった枠を超えた、特色ある学部や学環が急速に増えています。2025年には福井県立大学に「恐竜学部」が設立され、来年2026年には佐賀大学に「コスメティックサイエンス学環」が設立されます。
こうした学部の新設は、まさに“学びの多様化”の象徴です。私自身、生徒や保護者の方に進路を相談されたときに、「こういう新しい分野もあるんだよ」と積極的に紹介しています。
ただし、1つだけ注意しておきたいことがあります。それは、学部の“名前”だけに引っ張られないことです。
「恐竜が好き」だけでは入れない、恐竜学部のリアル
私たちの教育メディアでは、実際に福井県立大学恐竜学部を取材しました。福井県は言わずと知れた「恐竜王国」。福井県立恐竜博物館には世界的な化石が集まり、県全体が恐竜文化の発信地として知られています。
そんな環境の中にできた「恐竜学部」は、全国の“恐竜好き”の高校生たちから注目を集めています。
しかし、現地で教授にお話を伺った際、「恐竜が好きなだけの人はいらない」と言っていました。教授によれば、「恐竜学部」という名前から、“恐竜の名前を全部言える人”“ブラキオサウルスが大好きな人”が集まると思われがちですが、実際にはそうではないのだそうです。
恐竜学部で学ぶのは、単に恐竜そのものではなく、「恐竜を通して地球の過去を読み解くこと」です。恐竜の骨を調べることは、地質学・古生物学・生態学など、さまざまな学問分野の入り口にすぎません。
「恐竜の化石がどんな地層から見つかったのか」
「その時代の気候や環境はどうだったのか」
「どんな生態系の中で生きていたのか」
こうした問いを科学的に追究していくのが、恐竜学部の学びなのだそうです。恐竜はあくまで“入口”で、そこから地層や生物進化・環境問題など、もっと広い世界に目を向けていくことができるわけですね。
「化粧が好き」では届かない、コスメティックサイエンス学環の真意
佐賀大学の「コスメティックサイエンス学環」も、名前だけを見て「化粧品が好きな人のための学部」と誤解されがちです。しかし実際はまったく違います。
取材でお話を伺った先生たちは、「お化粧が好きなだけの人に来てほしいわけではない」とおっしゃっていました。
たとえば、
「ヒアルロン酸の分子構造はなぜ保湿効果をもたらすのか?」
「ビタミンC誘導体はどんな化学反応でシミを抑制するのか?」
「香料の成分が脳に与えるリラックス効果はどのようなメカニズムなのか?」
こうした問いに、化学・生物学・薬学の知識を使って答えることができる人を育てるのが目的です。そしてこの分野は、単に「化粧品」だけで完結するものではありません。
化学物質を人体に安全に取り入れるという意味では、食品や医薬品、再生医療などにも応用が可能です。コスメティックサイエンス学環で学ぶということは、「美の科学」だけでなく、「生命科学」や「素材開発」といった、理系の最前線に踏み込むことになるのだと自分は考えています。
名前に惑わされず、「中身」で選ぶ
このように、大学が打ち出す“学部名”は、あくまで入り口にすぎません。そこに書かれた言葉の印象だけで志望校を決めると、「思っていたのと違った」と後悔してしまうこともあります。
学部の名前に惹かれることは悪いことではありません。むしろ、「なんか面白そう」「この分野をもっと知りたい」という直感は、志望理由の最初の火種になります。
しかし、それだけでなく、名前だけで判断せず、その学部で何を学べるのかを必ず調べることが重要です。それが、自分に本当に合った大学を見つける第一歩だと言えるでしょう。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)




