2024年の女性就業率

進行しつつあるインフレに対応するために、日本銀行は政策金利を上げるべきだとの意見がある。これに対し、実質賃金の上昇が実現するのを待つべきだという反論がある。皮肉なのは、現下の実質賃金の下落がインフレによって引き起こされていることだ。
では、政策金利を低く抑え続け、景気刺激を続ければ、インフレを上回る名目賃金の上昇は起こるのだろうか。それを占う際に重要なのは、労働供給にどれほど余力が残っているかである。筆者は2017年、原ひろみ・明治大学教授との共著で、名目賃金が上がらない理由は、女性労働を中心に供給余力があり、労働市場が引き締まっていないためだと主張した。そこでは、労働供給の余力が尽きて賃金上昇が始まる点を、発展途上国で農村の余剰労働が消え賃金が上がり始める点になぞらえ、「ルイスの転換点」と呼んだ。
その後、女性の就業率は上昇し続けた。例えば30~34歳女性の就業率は、17年の72.9%から24年の81.6%まで上昇した。他の年齢層でも同様の傾向が見られ、女性の全年齢の就業率は54.2%まで上がっている。そのため、ルイスの転換点が到来し、賃金上昇が始まるのではないかとの見方がある。それを待ってから政策金利を引き上げても遅くはないという考えにつながる。
しかし筆者は、ルイスの転換点の到来はまだ先だとみている。まず、女性の就業率の上昇のペースは鈍ることがない。これは少しの賃金上昇で労働供給が大幅に増えるという弾力的な労働供給がまだ存在していることを示唆している。さらに60~64歳といった高齢者の就業率は男女共に急激に上がっており、ここにも供給余力がある。
さらに、103万円の壁や130万円の壁に代表される、労働供給を抑制している税・社会保障政策の見直しの議論が進めば、労働供給はさらに増えるだろう。年金支給開始年齢の引き上げも同様だ。こうした改革によって短時間労働者がフルタイムに近い形で働くようになれば、女性労働者を中心に技能の活用度が高まり、実質的な労働供給はさらに拡大する。
以上を踏まえると、労働供給余力が枯渇し賃金が上がるのを待って政策金利を引き上げる判断はリスクが大きい。日本銀行は、足元のインフレを見て政策金利を決めるというオーソドックスな政策決定を行うべきだ。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)







