不服申し立てが認容されにくい背景には、(1)行政判断が法令・通達に沿う限りは誤りと認定されにくいこと、(2)誤りの立証責任と必要資料の整備が納税者側にあること、(3)審理が書面中心で高度な法的整理が求められること、という複数の要因が考えられる。

 こうした制度構造を踏まえると、不服申し立ては現実的な観点では、活用のハードルが高い制度と言えるだろう。

税務調査での交渉力が
納税者の主張を通すカギ

 税務署の処分を不服申し立てで覆すことが非常に難しいことは、これまで述べてきたとおりだ。「では、不服があるときにどう対処すればよいのか」という疑問が生じる。

 実は、課税額が決定する前の“税務調査”で申告内容の正当性を適切に説明し、必要に応じて交渉を進めるのが最も現実的だ。

 調査で収集された事実や資料が課税判断の基礎となるため、この段階でいかに申告内容の正当性を示せるかが、その後の課税判断に大きく影響する。

 専門的な判断が求められる場面が多いため、税理士が同席し、支援することが前提となる。そのうえで、調査で申告内容の正当性を適切に伝えるためには、次の3つの視点が重要だ。

(1)事実関係と根拠資料を整理、一貫した説明を行う
 申告の根拠となった資料をもとに、どのように財産を評価し、どのような実態で資金が管理されていたかを説明する必要がある。

 事前に次のような根拠資料を整理し、一貫して説明できる状態にしておくことが重要だ。

●財産の評価根拠(評価明細書、固定資産評価証明など)
●預貯金の入出金が分かる資料
●生前の資金移動の記録 など

 説明が不十分だと、調査官に意図した内容が伝わらず、結果として申告額よりも高くなるおそれがある。

(2)修正に応じる部分と主張を維持する部分を整理する
 過少申告を指摘されたとしても、その全額について修正申告をするかどうかは納税者側が判断できる。修正が妥当と判断できる部分には適切に応じ、一方で評価方法や事実認定に検討の余地がある部分については、根拠を示しながら修正に応じない姿勢を示すことが、交渉において有効に働く場合がある。