たとえば、調査官から600万円の過少申告を指摘された場合に、300万円分については修正申告に応じ、残りの300万円は修正申告を行わず争点として残す、といった対応が考えられる。
納税者が修正申告に応じない部分については、先述の通り、税務署が「更正処分」を行うことになる。しかし、税務署にとっては「更正処分は、できるだけ行いたくない」というのが、本音だろう。
なぜなら、内部決裁の手続きや処分を裏付ける理由の明示が必要となるうえ、「不服申し立て」される可能性も生じ、税務署にとって事務負担が大きいからだ。
そのため「300万円は修正申告するが、残りの部分は更正処分として判断してほしい」と明確に示すことで、調査官が納税者の主張に一定の理解を示し、修正申告分に応じた部分のみで調査を収束させるケースもある。
もちろん、すべての場面で納税者側の意向が反映されるわけではない。それでも、税務署側の運用や更正手続きの実務を理解したうえで交渉に臨むことは、結果に大きく影響する。
(3)専門家の支援を受け、現場に即した対応を行う
法令・通達の整理、必要資料の選別、説明の順序付けなどには経験が必要で、納税者が自身で行うのは容易ではない。税理士が同席することで、「調査官への説明の方向づけ」などを適切に支援できる。
課税処分を後から覆すことが極めて困難である以上、主張を適切に伝える場として、税務調査を活用したい。
ただし、その主張が実際に認められるかどうかは、税理士の力量に大きく左右される。調査官の質問意図を正確に把握し、必要な根拠をどの順序で示すべきかを判断するには、現場での経験が欠かせないからだ。
税務調査の立ち会いを依頼する際は、申告を担当した税理士が調査対応に精通しているかを必ず確認したい。もし経験が不足しているようであれば、調査に強い税理士へ依頼することも選択肢となるだろう。







