Aは「マジか?」と驚きつつ、悩んでいる暇はないと思い、すぐに広告に表示された生成AIのサイトに登録した。画面中央の入力欄に「新製品○○のプレゼン資料」と打ち込むと、右側に"構成案プレビュー"が現れた。青い「生成する」ボタンを押すと進捗バーが動き出し、わずか3分後には18枚のスライドが整然と並んだ。

「す……すごいぞ!」

 Aは、その後、各スライドの詳細部分を手直しして、30分後にはプレゼン資料を完成させた。

予想外の高評価

 翌日の朝礼後、AはB課長に昨日作成したプレゼン資料を見せた。B課長は資料をパラパラとみて驚嘆した。

「見栄えもバッチリだし、よくまとまってるじゃないか。特に『御社のビジネスパフォーマンス 300%アップ』って、このキャッチコピーはいいね。しかし、君はプレゼン資料を作るのが苦手だったはず。なぜ今回はこんなにいいものができたんだ?」

「実は、自宅のパソコンから生成AIツールに登録して作ったんです。たった30分でこの通り……」

 B課長は感心しながら言った。

「生成AIか。ずいぶん便利な時代になったものだ」

 午前10時。AとB課長は新製品販売のための戦略会議に出席した。会議には2人の他、C専務をはじめ支社長ら5名の管理職者が参加していた。Aが作成した資料はあらかじめ各自のパソコンで共有され、Aはよどみなく30分間の説明を終えた。

「私の説明は以上です。何か質問はございますか?」

 C専務がさっと手をあげた。

「この提案は実によくまとまっている。販売方法はこの線でいこう。しかも、今回はいつも以上にプレゼン資料の出来栄えもいいじゃないか。よくがんばったな」

「専務、ありがとうございます。この資料、AIで作ったんです」

「AIだと?」

「はい。自宅のパソコンで無料の生成AIを使ったんです」

専務が怒った理由は……

 得意げな表情のAとは対照的に、C専務の顔つきはみるみるうちに険しくなった。

「この資料、乙社の社名と商品の契約金額が入ってるよね?」

「ええ。初回は会社の大手取引先である乙社向けのプレゼン資料として作るよう、B課長に指示されたのでそのようにしましたが……」

「乙社に売り込みをかけることや具体的な契約金額、それに新製品はまだ外部には発表していない。いわばわが社の企業秘密だ。A君は今、自宅のパソコンで無料の生成AIを使ったそうだが、情報漏洩とか大丈夫なの?」