中年の4大疾病を防ぐ
筋力と心肺能力の向上

 そして、筋肉量が少なくて筋力が弱く(あるいはそのいずれか)、しかもメタボリックシンドロームを抱えていると、全死因死亡率は3倍~3.33倍に増える。

 筋力の重要性が心肺能力に勝る可能性さえ、少なくともひとつの研究から暗示される。40歳以上で高血圧を抱えている男性およそ1500人を平均して18年間にわたって追跡した結果によれば、心肺能力に関して下半分にランクされても、筋力が上位3分の1にランクされれば、下位3分の1の被験者よりも全死因死亡率がほぼ48パーセント低かった(注1)。

 これは、最大酸素摂取量のストーリーと同じだ。心肺能力が高いほど、死亡リスクは低くなる。薬など他の介入からは、これだけすごい恩恵はもたらされない。加齢に伴う病気――4大疾病――の予防に運動は非常に効果的なので、しばしば医薬品にたとえられてきた。

 スタンフォード大学の科学者ジョン・ヨアニディスは、挑発的な疑問を投げかけることで知られる。そんな彼は、いま紹介したばかりのたとえも文字通り試してみる決心をした。

 すなわち、運動に関する研究と薬に関する研究を比較対照することにしたのだ。

 すると、冠状動脈性心疾患(注2)、前糖尿病や糖尿病、脳卒中による死亡率の低下に関して、運動による介入はさまざまな医薬品と同じぐらい、あるいは上回るときもあるほど効果的であることがわかった。

 そして、さらに良いことがある。薬は医師の処方が必要だが、運動には必要ない。

(注1)心肺フィットネスは、修正ボークプロトコル〔ランニングマシンによる運動負荷試験の方式〕を使って測定される。そして筋力は、ベンチプレスのワンレップマックス〔IRM。1回だけ持ち上げたときの最大値〕とレッグエクステンション〔座った状態で足首あたりに負荷をかけ、脚を曲げ伸ばしする〕によって測定される。

(注2)ヨアニディスの分析で唯一の例外は心不全で、運動による介入よりも、利尿剤を使った治療のほうが良い成績を残した。