たとえ運動によって寿命が1年短くなっても(実際にそんなことはない)、健康寿命にもたらす恩恵を考えるだけでも取り組む価値があること、中年以上の人には特に有効であることを私は患者に話す。
加齢の大きな特徴のひとつは身体能力の衰えだ。心肺の健康状態はさまざまな理由で衰えるが、最初は心拍出量〔1分間に心臓が送り出す血液量〕が少なくなる。その大きな原因は最大心拍数の減少だ。10年ごとに筋力は低下して筋肉量は少なくなる。
さらに骨はもろくなり、関節は硬くなり、バランス感覚が悪くなる。梯子から落ちたときや、歩道の段差でつまずいたとき、つらい経験によって現実を知る人は多い。
ヘミングウェイの言葉を言い換えるなら、このプロセスはふたつの方法で進行する。すなわち「徐々に」進行するものと、「突然」始まるものがある。
つらい現実から目を背けないでほしい。年を取ると体には本当に大きな負担がかかる。
筋肉量の少ないグループは
12年後に半数が死亡
(長期追跡する)縦断的研究や(さまざまな集団への)横断的研究からは、20代や30代の人が中年になるあいだ、除脂肪体重(そのほとんどが筋肉量)や活動レベルは比較的変わらないことがわかる。
ところが、65歳を過ぎたあたりから身体活動と筋肉量のどちらも急に低下し始め、75歳を過ぎると勢いはさらに加速する。70代の半ばで、崖から墜落したような経験をする。
80歳になるまでには、平均的な人の筋肉はピーク時よりも8キロ少なくなる。
しかし運動を高レベルで維持していると、失われる筋肉はずっと少なく、平均して3~4キロにとどまる。ここでは因果関係の方向がはっきりしないが、おそらく双方向ではないかと私は思う。筋肉が衰えるから活動しなくなる可能性も、活動しないから筋肉が衰える可能性もあるだろう。
筋肉の衰えと運動不足が続くと、私たちの命は文字通りリスクにさらされる。
筋肉量(非脂肪量)がきわめて少ない高齢者は、あらゆる原因によって死亡するリスクが最も高い。







