イラン紛争の影響で株価が乱高下してきた。こんなとき、ベストな投資戦略とは一体何か?
そんな迷いを一掃してくれる本がある。「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書」と絶賛されている『JUST KEEP BUYING』とその待望の続編『THE WEALTH LADDER 富の階段』だ。今回はベストセラー『お金の大学』両学長に「資産形成の最適解は、収入・資産レベルごとに違う。今の私の最適解を教えてくれる唯一無二の本」と絶賛されている『THE WEALTH LADDER 富の階段』について一橋大学特任教授の楠木建氏に寄稿いただいた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

徹底的にお金についての戦略と解決策を突き詰めた挙句の果てに「お金でない真実」が見えてくるチャーミングな本とは?【一橋大学特任教授が教える】Photo: Adobe Stock

「富」のメリットとデメリット

「富の階段(ウェルス・ラダー)」には6つの資産レベルがあるが、レベル5(資産1000万ドル以上~1億ドル未満)やレベル6(資産1億ドル以上)となると、普通の人たちにとってはまず関係のない世界だ。

 本書にある「実践的なアドバイス」もほとんど意味がない。
 しかし、それでも読み物として面白い。
 人生におけるお金の意味を改めて考えさせてくれる。
 レベル3やレベル4の章よりも面白いぐらいだ。

 富がもたらすメリットは容易に想像できる。
 しかし富のデメリットについてはほとんど議論されていない

 本書の前半もそうだが、富について語るとき、多ければ多いほどいいという暗黙の前提がある。
 しかし、客観的に見ると実際はそうでもない。

 一般的にお金は多いほうがいいのは確かだ。
 お金で幸せは買えないが、貧しければ何も買えない。
 レベル1から抜け出せば、ほぼ確実に幸福度は上がる。

 しかし、過剰な富は人生のいくつかの側面を悪化させる可能性もある。
 とりわけ難しい問題は、他人に対して猜疑心を抱いてしまうことだ。

 富は相手との関係を変えてしまいかねない。
 なぜなら、相手の本当の興味の対象がその人なのか、その人のお金なのかがわからなくなるからだ。

 彼らの人間関係は、彼ら自身が何者であるかではなく、彼らが他者に何を与えられるかによって定義されるようになる。

世界一の富豪は本当に幸せだったのか

 かつて世界一の富豪とされたアメリカの鉄道王ウィリアム・ヘンリー・ヴァンダービルトは、自らの人生を彼ほど裕福ではない人と比べ次のように述べている。

「彼の資産は私の100分の1もないが、私より人生の喜びはずっと多い。
 彼はそれほど豪華な家に住んでいるわけではないが、そこは私の家と同じくらい快適だ。(中略)
 健康状態は私より良く、おそらく私より長生きするだろう。それに彼は友人を信頼できる。」

 富は子どもたちの教育や人生経験の大きな支えとなる。
 しかし、一方では努力する動機を奪いかねない。
 特権意識を育むことにもつながる。

 いつも親から欲しいものを手に入れている子は、周りからも同じようにしてもらうことを期待するかもしれない。
 そうした思い込みは、生涯にわたってその子どもに悪影響を及ぼすだろう。

今こそニクソンの言葉に耳を傾ける時

 ウォーレン・バフェットは「子供達には好きな人生を歩めるだけのお金は残すが、何もしなくても生きていけるほどのお金は残さない」と言っている。

 考えてみれば、経済的な富は、富のごく一部でしかない。
 身体的な富(健康であること)や社会的な富(良好な人間関係)はもちろん、人生の中核には精神的な富(心の豊かさ)や時間的な富(時間のゆとり)がある。

 ニクソン元アメリカ大統領は1977年のインタビューでこう言っている。

「世界で最も不幸な人たちは、フランスの南海岸や、ニューポート、パームスプリングス、パームビーチといった国際的なリゾート地で暮らしている人たちだ。
 毎晩パーティに出かけ、午後はゴルフやトランプに興じて日々をすごしている。
 酒を浴びるほど飲み、しゃべり続けているが、物事を深く考えたりはしない。
 引退して社会と積極的に関わろうとせず、人生の目的を持たずに生きている。(中略)
 人生に意味を与えるのは目的だ。それは目標を持ち、その達成を目指して闘い、苦しみながら努力することなのだ。たとえ、目標を実現できなかったとしても。」

 結局のところ、他の種類の富を持っていなければ、お金には価値がない。
 どんな数字にゼロをかけてもゼロでしかない。
 裕福な人生とは数字ではなく感覚だ。
 その感覚をどこから得るかはその人の生き方にかかっている。

「真の資産」とは単なる資産ではなく、それを使って築いた人生そのものだ。
 徹底的にお金についての戦略と解決策を突き詰めた挙句の果てに、お金でない真実が見えてくる。そこに本書の醍醐味がある。

(本稿は、『THE WEALTH LADDER 富の階段』に関する完全書き下ろしです。)