その写真は、彼と同時に逮捕された組織の幹部の逮捕時のものだった。

 幹部は、ジャンパーの下に防弾チョッキを着ていて、ふてくされた顔をしていた。

 いったいどういうことなんだ! 彼はそう言いたげな、憤った表情でこの写真を凝視した。

「いったいどういうことなんだ」とは、「防弾チョッキ」のことで、彼には配られていないのに、そんなものを幹部が身に着けていることにショックを受けた様子だった。

 護身用の防弾チョッキは本来、組織の上下なく皆一様に配布されるもので、一部の幹部の独占であっていいわけがない。その事実を、彼は知らなかったのだ。

 なぜ、同じ革命戦士であるはずの幹部だけが、防弾チョッキを身に着けていたのか。

 その理由は何なのか?

 なぜ、自分には与えられなかったのか?

 彼は黙ったまま写真を見つめていたが、徐々に、彼の表情が険しくなった。

 部下は犠牲になっても、自分だけは助かりたいという利己心以外に、理由は考えられない。

 彼は、じっと考え込んでいる様子だった。

革命戦士の心を動かした
ある女性の存在とは

 その頃、黙秘を続けている彼の身元が判明したと連絡が入った。

 親は、警察の事情聴取を通じて彼に面会したいと申し出たが、彼は拒否した。

 その後、私は取調べで、事件直前に彼が知人の女性に出した手紙の存在をほのめかした。

 手紙は投函されたものの、相手が不在であったからか、宛先に該当者がいなかったからか、郵便局から彼のアパートに戻ってきたものだった。

 手紙には、これから自分が起こす事件の内容や、自分が参加する組織の活動への決意などが書かれていた。

 彼の所属する組織や彼自身の罪状を問う意味で、第一級の証拠品だった。

 相手の女性は、地方公務員で公立学校の教師だった。

 当然ながら、警察は裏付け捜査としてこの女性からも事情聴取を行っていた。

 そのことを私から聞いた彼は、一瞬にして顔面蒼白になり、目の前の机に両手を差し出した。

 頭を抱えてうなだれ、苦しい表情になった。