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公安事件で逮捕された“革命戦士”の被疑者は、強固な思想に支えられ、検事の問いかけにも黙秘を貫いていた。しかし取調べ中に提示した1枚の写真や、ある女性の存在を告げると、彼は表情をわずかに揺らがせたという。検事として彼と対峙した村上康聡氏が交わした約束とは?※本稿は、弁護士の村上康聡『検事の本音』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。
忘れられない被疑者
“革命戦士”との戦い
今でも、忘れられない被疑者がいる。
かつて、学生らが多数逮捕され、国の内外でも大きな社会問題となった公安事件があった。
逮捕された、そのうちの1人を私が取り調べた。
彼は当初から黙秘し、弁護人を付けていた。
名前も年齢も不明の被疑者は警察署の留置番号で呼ばれていた。
黙秘しているため、途中からは警察ではなく検事の私が取り調べることになった。
連日、私は警察署に通い、取調べを行った。
彼は、黙秘はしていたが、目をつぶることはなく、にやにやしながら私の話を聞いていた。
革命を夢見て事件を起こした彼にとって、目前にいる検事の私は、せん滅の対象となる国家権力の権化である。その取調べに対して黙秘して抵抗することは、「真の革命戦士」を目指す彼にとって喜び以外の何物でもない。そのときの彼の顔は誇らしげで、自ら絶対的と盲信する思想に酔い、自信と優越感に満ちあふれているように私には思えた。
勾留満期の期限が近づいたある日、取調べで私は、彼に1枚の写真を見せた。
その写真を見て、彼の表情は一変し、深い陰りを帯びた。







