公安捜査官は秘密保持が最優先されるため家族にも身分を明かさず、また派手なスパイ映画と異なり、地味で目立たない仕事が多いという。TBSドラマ『VIVANT』で公安監修を担当した著者が、公安捜査官の実情を明かす。本稿は、勝丸円覚『警視庁公安捜査官 スパイハンターの知られざるリアル』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
映画「007」とは異なる地味な仕事
公安捜査官への配属自体がシークレット
公安の秘匿捜査は、刑事部のように事件が発生して被疑者を追って捕まえる、というわかりやすい流れがない。
オペレーションによっては1年も2年も水面下で秘匿捜査をすることもある。スパイやテロリストを追うのが仕事でもあるので、当然、身の危険もある。
捜査内容もケースバイケースなので、つねに緊張も伴う。夜中に連絡がくることもあるので、枕元につねに携帯を置いて、いつでも電話に出られるようにしておかねばならない。
私のように、子どもの頃に「007シリーズ」を見て、スパイ映画に憧れ、公安警察に入る夢をかなえた身でも、地味にコツコツと情報を集めたり、雨の日も風の日もターゲットを尾行し続けるような仕事に、しんどさを感じることもあった。
公安捜査官が他の警察官と大きく違うのは、公安に配属が決まった時点で、警察学校の同期や機動隊にいる同期とはいっさい連絡を断つルールがあることだ。
基本的に、家族や身内にも公安に配属になったことは言わない。私も家族にはずっと公安捜査官になったことは告げずに、
「今日も泥棒を捕まえてきたよ」
と話していた。
さすがに公安の外事課に配属され、海外の日本国大使館で諜報活動をすることになってからは、私がいつも大使館にいないことを耳にした家族に問いただされて、公安であることを初めて告げた。
家族は驚いていたが、
「これ以上のことは、今後も話せないから理解してほしい」
とだけ話した。
公安に配属されると、所属する班のメンバーが、いわば家族のような存在になる。言い換えれば、国の安全を背負った運命共同体である。ここでのチームワーク次第で、課せられたミッションがうまくいくかどうかを左右すると言ってもいい。
仮にチーム内の人間関係が悪いと最悪だ。もともと公安は他部署との交流が禁止なので誰にも相談できないからだ。
チーム内の先輩後輩の仲が悪いことが原因でノイローゼになる人もいる。ただでさえ秘匿捜査はプレッシャーがかかる。
それだけでなく人間関係のストレスも重なると、
「もう公安での仕事は無理です。警察署に異動させてください」
と早期に異動を願い出るケースもある。
また階級が上がって昇任異動で公安を出ていく際に、「公安はもう希望しません」と言って出ていくケースもあった。