この結果から、AIは言語の理解力に限界があるとされました。人間の質問にたいしてもっともらしく答を返してくるのだけれども、本当の意味では文章を理解しておらず、結果として本質的で複雑な質問に対してはとんちんかんな答しか返せないというのです。

 この発見は2017年当時のホワイトカラーを大いに元気づけました。AIに足らないのはコミュニケーション能力だとすれば、高いコミュニケーション力を必要とする仕事は未来永劫なくならないと思われたのです。

 この前提が変化するのが2024年です。この年、まず英語でAIの偏差値が70を超えました。ただこの時点では、より曖昧な言語である日本語ではまだAIは東大の試験を突破できていませんでした。最終的にAIが東大の入試を突破するのは今年、2025年です。今年ようやく国語でもAIは偏差値70を超えることができたのです。

 私たちはこの変化をすでに2つの形で体感しています。ひとつは、生成AIが嘘をつくハルシネーションという現象がここ数年で劇的に減少してきたこと。そしてもうひとつは、グーグル翻訳のようなAI翻訳の精度がここ数年で劇的に向上してきたことです。

 この結果として2017年当時は「当面消滅することはないだろう」と言われていたホワイトカラーの仕事が、2025年に入って急速に危機水準に入りはじめたのです。

 2025年のもうひとつの大きな変化が、AI投資のステージが変わったことです。AI開発にはいわゆるスケーリング則という原則があって、(1)ビッグデータの量、(2)データセンターの計算能力の量、(3)AIに設定するパラメータの量の3つのスケールを向上させればAIの能力は高まるというものです。

 2024年まではまだアルゴリズムを人力で工夫することでAIの性能差が生まれたのですが、2025年に入ってからはこのスケーリング則を投資規模で上回る方が性能差につながることがはっきりしてきたのです。

 その結果がAI大手の投資競争です。各社ともに数十兆円の巨額の投資計画を立てデータセンターを増強し、そのための電力すら確保して競争に勝とうと動いています。