Aさんは急な残業を拒否できる?

 Aさんのような葛藤、多くの人が一度は経験したことがあるでしょう。

 かつては、長時間働くことが「会社への忠誠心」を図る暗黙のルール、「出世への条件」とまで言われた時代もありました。しかし今は、個人の生活や家庭を犠牲にして会社のために人生を捧げるよりも、「限られた時間で仕事の成果を出し、プライベートを充実させたい」と考える傾向が強くなっています。

 まさに働き方改革、価値観の多様化を象徴する一方で、会社側からは「緊急業務に対応できない」とか、現場では「残された業務は結局誰かが終わらせなければならず、一部の人にしわ寄せが溜まる」「管理職への負担が増えるばかり」といった不平不満も渦巻いています。

 さて、Aさんのケースです。結論から言うと、原則として、労働者は正当な理由なく残業を拒否することはできません。

 まず、残業を法的に正しく理解し、整理してみましょう。

 労働基準法では、1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならないと定められています。ただし、実際の企業活動では例外的に、2つの法的根拠を整えた場合に残業をさせることができるとしています。

 1つ目は、労働基準法の「36(サブロク)協定」です。会社が業務の都合で残業を命じるには、労働者と使用者の間でこの36協定を結び、労働基準監督署に届け出ることにより、36協定で定めた範囲内で残業を命じることができます。

 2つ目は、会社の就業規則に「業務の都合上、必要な場合には36協定の範囲内で残業を命じることがある」と定められ、かつその就業規則の規定内容が合理的で社内に周知されていることです。

 この2つの法的根拠があれば、急な残業命令であったとしても、原則的には社員は残業命令に従う義務があり、拒否することができません。

 ただし、例外的に残業命令を拒否できる場合もあります。