ピッチではパオローニは有能なキーパーだった。しかし素行に問題があった。

 彼は10万ユーロ(約1600万円)の年俸をもらっていたが、ギャンブルにのめり込み、テニスの試合や競馬、オンラインポーカーなどのギャンブルで大金を失っていた。

 2010年9月、パオローニはブックメーカーの代理店をしていたマッシモ・エロティアーニに出会い、クレジットカードで賭けをし、病み付きになり借金を作ってしまった。年俸と同額の10万ユーロの借金返済のため、1、2試合だけ八百長することを自宅で求められた。

 八百長を渋っていると、同席した歯科技工士を名乗る男が彼を脇に呼び、処方袋を見せてきた。それにはパオローニの妻の名前と睡眠薬の名前が印字されていた。

 パオローニが「どういう意味だ」と聞くと、歯科技工士を名乗る男は「以前、お前が気分が悪くなったことがあるだろう。この薬のせいだ」と脅された。

 パオローニは、妻に危害が及ぶことを考慮し、八百長に応じるしかなかった。

 ギャンブル依存症だったパオローニは、薬物を混入した容疑で逮捕された。暗号で話す麻薬密売人とは異なり、彼らはあけすけな会話をしていた。その電話を盗聴され、エロティアーニなどの犯罪組織の構成員も逮捕された。

注目度の低いセリエBは
世界中から大金が集まる賭場に

 クイド・サルヴィーニ検事の捜査で、アタランタ対ピアチェンツァの試合について、興味深いことが分かった。中国などのアジアにいた賭博の胴元を特定することができたのである。

 現地では違法賭博が拡大していたが、賭博をするのに自分の身元を明かす必要はない。参加者は誰にも身元を知られずに、何千万ユーロもの大金をイタリアの目立たない試合に賭けることができるシステムが構築されていたのだ。

 中国や香港の犯罪組織は、どのようにして大金を賭けることができているのだろうか。

 数千万ユーロもの金を賭ければ否応なく目立つ。だから主にセリエBの目立たない試合を選ぶ。それをイタリアマフィアが賭けの対象にし、アジアのマフィアの顧客へ賭けを促す。