経済的不安を抱える
1.5軍の選手が狙われやすい
2015年の読売ジャイアンツの野球賭博事件で処分を受けた3人の投手も、主力とは言えない中堅・若手だ。
1軍に定着できていないこのような選手たちは収入が不安定で、球団内での将来に不安を抱えている。若手・中堅選手の経済的・心理的脆弱(ぜいじゃく)性は、反社会的勢力などの違法組織にとって付け込みやすい要素となる。
野球の試合は長時間かつ複雑で、観客や審判、チームスタッフがすべてのプレーの意図まで見抜くことは困難である。特に防御率や与四球などのスタッツ(統計)に、故意のミスを目立たない形で織り交ぜることは十分に可能で、「たまたま調子が悪かった」と見せかけることもできてしまう。このような構造的要因が、投手というポジションがもつ自由度に悪用の余地を与えている。
八百長やインサイダー的な賭けを仕掛ける場合、チーム全体を買収するよりも1人の投手を狙う方が遥かに効率的である。先発投手であれば試合全体に影響を与える可能性が高く、リリーフ投手でも1イニングだけの勝負に狙いを定めれば十分なリターンが見込める。
犯罪組織の立場からすると、最小コストで最大の経済効果を上げやすい対象になるのだ。
組織的予防の必要性から検討すると、単なる規則強化だけでは不十分である。密室性の高さゆえにチェックには限界があることを承知した上で、具体的なアクションを考える必要がある。
例えば、投手個人の行動をより詳細にトラッキングする分析技術の開発、金銭トラブルや交友関係の定期的なチェック、若手への倫理教育と通報制度の徹底、外部の監視団体(例えばスポーツベッティングの分析を行う企業)との連携などである。
野球というスポーツの根幹を守るためには、「投手」という存在の影響力を正しく認識し、スポーツ倫理とテクノロジーの両面からの守りを構築していく必要がある。プロ野球球団は、野球以外でもリスクマネジメントにおける守備力を強化しなければならないのだ。







