習近平政権は、この「香港経由の資本逃避」を国家的リスクとみなした。香港を自由のままにしていたら、中国自体が破綻しかねないと恐怖したのである。だからこそ政治的自由を制限するだけでなく、金融取引の透明化と監視強化を急ぎ、香港を通じた資本移動を細かく管理する方向へ舵を切った。

 香港の本土化とは、自由を奪って統治を強化しただけでなく、中国本土の国家管理金融システムを香港にまで拡張し、資本流出を制度的に封じ込める試みである。

「短期的なリスク」を抑え込むために
軽視された安全性への批判や警告

 中国の金融体制の核心は、「信用を生む主体」と「リスクを引き受ける主体」が同じであるという点だ。

 国家が銀行システムを支配し、共産党がその上に立って資金配分を指揮する。株式市場や不動産市場も、政治的判断によって売買停止や規制強化が行われる。つまり、市場の上に政治がある体制である。

 これでも短期的には危機を抑え込めるだろう。株価が急落すれば取引を停止し、問題企業が出れば国有企業が救済し、不動産価格が下がり始めれば金融機関に融資姿勢を緩めるよう指示することも可能である。

 だが、その代償として、経済の安定も不安も、すべて最終的には国家が背負う構造になる。市場の自律的な調整メカニズムは働きにくく、小さな歪みが放置され、政治判断によってまとめて処理される傾向が強まる。

 2020年以降、中国政府が不動産デベロッパーやアリババ、テンセントといった民間IT企業に対する規制を強めたのも、表向きは「共同富裕」や「プラットフォーム規制」と説明されているが、実際は中国共産党を守るために行われる金融リスク管理の一環である。

 不動産業界は中国GDPの3割前後を占め、地方政府債務や土地収入と絡み合った巨大システムになっていた。IT企業の金融子会社は、膨大な個人データをもとに独自の信用創造を行い、シャドーバンキングの一角を担っていた。

 国家管理金融のもとでこれらのリスクが積み上がると、最終的なツケは国家と中国共産党が負うことになる。