火災原因の調べが進むにつれ、避けられたはずの災害であることが明らかになってゆく。外壁工事を請け負っていた建設会社には過去に安全義務違反の過去があり、住民は工事前から「費用が高すぎるのではないか」「防火上のリスクが大きいのではないか」と繰り返し疑問を呈した。それでも工事計画は修正されず、行政の監督も形ばかりにとどまったという。

 発注者である住民の要望があれば、工事内容の見直しや資材選定が再検討されるべきだった。そもそも、なぜ安全義務違反歴がある業者が選ばれたのか不思議であるが、理由は見つけられなかった。

 このように、住民を中心とする多くの人が危険の兆候を感じていたにもかかわらず、すべては無視され、可燃性の高い資材を使っての工事が強行された。

 ここに、中国政府が一国二制度を無理やり放棄させた香港統治の病理がある。

国家安全法が封じた
市民からの「不安の声」

 火災後、香港当局はこの火災に関する情報統制を強めた。これまでの香港では考えられないことである。

 重大事故があれば、それを繰り返さないように原因究明と責任の所在が追及される。少なくとも、議会において反政府勢力がそれを進めるはずだ。その根拠となるのが、住民からの証言、業者からの内部告発、メディアの調査報道などである。

 だが、香港では、こうした動きが「国家安全」の名のもとで抑え込まれた。

 火災と選挙の関連性を指摘して香港政府をSNSで批判した市民が、国家安全警察に拘束された。SNSで行政の監督不備を指摘しただけで警告されるだけでなく、海外メディアの記者を呼び出し、『ニューヨーク・タイムズ』紙などの報道内容に対して「偏向するな」「政治問題化するな」と批判したと報じられている。

 中国政府にとって最重要なのは、中国共産党の安泰だけである。そのため、不祥事が起こったときは、隠蔽に走りがちだ。もともと民主社会である香港ではなおさらで、政府批判は「体制を揺るがす可能性のあるリスク」とみなされがちだ。

 その結果、重大な問題であっても、それが政治批判や中央政府批判に結びつく可能性があれば、当局は情報の遮断と言論の抑制を徹底する。