相手の気持ちを知ることでええことに、ええことになったらええな

「あくまでも素人が語る怪談であって、プロの語る講談調ではありません。基本的には、高石さんが普段、誰かに喋るようにしてくださいとお願いしました。トキとしてヘブン先生にどうやったら伝わるか、気持ちを込めた伝え方にしてもらったんです」

「第12週の段階では、まだ愛には至っていませんが、将来的にはそうなってほしいと考えています。トキとヘブンにとっては怪談が日常会話のようなものだと思うんです。気持ちが通じるみたいな。芸として巧みに語ったり怖がらせたりするのではなく、心を通じ合わせるキャッチボールなんです」

 そう語る橋爪CP。

「父親は赤子を背負って『今夜はええ月だ』と独りごちておりました。するとまだ喋るはずのない背中の子が口を開いてこう言ったのです。お父っつぁん、お父っつぁんが最後に私をお捨てになったときも、こげにつきのきれいな晩でしたね」

 そこまで話すと、トキはろうそくをふっと吹き消す。

「子捨ての話という怪談でございました」

 怖っ。

 なかなか恐い話であるが、ヘブンは日本語がわからないながら、聞き取り、怖さとは別の受け止め方をする。

 自分を捨てた父のことを思い出し、「許さない」とヘブンは険しい顔になる。

「そげなこととは知らずすんません」とトキは今後は他の話にしようかと提案するが、ヘブンは「子捨て怪談、すばらしいありがとう」と気に入ったようだ。

 トキは「子捨ての話。私こうも思います」と自身の解釈を、ヘブンにわかりやすいように、あえて、たどたどしい日本語で語り出す。

「何年捨てられてもこの子、同じ親の下、生まれた。この子の思う気持ち強い。それを知ったこの親、この子、大切に育てる 思います」

「相手の気持ちを知ることでええことに、ええことになったらええなと思います」

 ヘブンに、あなたの言葉、あなたの考えを聞きたいと言われているから、トキはこのように意見を言ったのであろう。そのトキの解釈にヘブンは共感する。

「私、ええこと、ええこと、します」「シジミさんの考え、言葉すばらしい。怪談ありがとう」

「もっぺんですよね」ふふふ、笑いながら、ふたりは遅い時間まで怪談を続ける。その頃、松野家では「遅いのう遅いのう」とやきもきしていることも知らずに。

 トキがヘブンの家を出てから、そっと、さっきまで彼女のいた場所を振り返るヘブン。

 そして、また執筆作業に励む。

 帰り道のトキも、執筆中のヘブンも、どこか満たされているように見える。

 このしっとりと柔らかい雰囲気は、主題歌にも似ていて、心あたたまる。でも、これは夜寝る前に見たい気もする。配信でいつでも見られる時代らしいお話だ。

「練習しないでほしい」スタッフが高石あかりの怪談語りに要望→聞きやすくハイレベルだった〈ばけばけ第59回〉
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