世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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地方の店のレベルはピンキリ、ではある
さて、ここまでお読みいただいた読者の中には、「日本の地方の食のレベルは、本当にそんなに高いのだろうか」と、半信半疑の方もいるかもしれません。
たしかに、もしあなたが外国から来た人に、「美味しい店を紹介して」と言われた場合、銀座の寿司や天ぷらなら、不安なく紹介できるでしょう。なぜなら、日本の一等地で店を構えているという実績がありますし、銀座=一流店が軒を連ねる街として有名だからです。
それに対して地方は、「よくわからない」というのが正直なところでしょう。根底には、「都心では勝負できないけど、地方でならそこそこ名を上げられるから、田舎へ引っ込んだのでは?」と、訝しむ気持ちもあるかもしれません。
その疑念は、半分正解で半分間違いです。多くの人が予想するとおり、地方の店のレベルはピンキリです。「都心では勝負できないから…」という店があることも否定はしません。
けれども私は知っています。地方に、いかに素晴らしい店がたくさんあるか。地方の食材がいかに新鮮か。地方のシェフがどれほどの覚悟で店を構えているかということを。
実際、地方に魅せられて、東京から地方へ移住したシェフはたくさんいますし、世界の名だたる店で修業を積んだシェフが、日本へ帰国した後に、東京ではなく地方で店を構える例も増えてきています。
あるシェフは言っていました。「地方の魅力は生産者と距離が近いことだ」と。使いたい食材を、どういう人がどんな思いで作っているのかということが、訪ねて行けばすぐにわかるというのは、たしかに魅力的だといえるでしょう。
プロをも動かす、地方の鮮度と魅力
鮮度も当然抜群です。
たとえば、こういう例があります。
広島でビストロを営んでいた西健一さんというシェフがいるのですが、その方はいつも、静岡県・焼津の魚屋である前田尚毅さんという方から魚を買っていました。
あるとき、焼津へ行った西さんは「今日は自分が魚をおろしているフランス料理屋に一緒に行こう」と前田さんに誘われました。そして、店で魚を口にした瞬間、非常にショックを受けたと言います。魚があまりにも新鮮で美味しかったからです。
自分が広島で取り扱っているのと同じ魚なのに、こんなにも味が違うのかと驚いた彼は、その違いはやはり、魚が獲れてから調理するまでの日数の差なのだと感じたそう。そのため、すぐに広島の店を閉じて、家族で焼津へ移住し、「馳走 西健一」という店を開きました(前田さんのエピソードは本書のP88でも紹介します)。
これくらい、地方の食材はプロの料理人を惹きつけるということです。
また、日本の場合、自分が知らないものというのは得てして東京ではなく地方にあります。名前がない、地元の人しか知らない魚は東京には出回らないし、本当に美味しくて価値があるものは、地元の人たちの間で消費されてしまいます。
腕利きのシェフであれば、東京で店を構えていれば世界中の食材を扱えますが、それでも、そこにしかない最上の一皿を提供するために地方へ行きたい。
そんな気概があるシェフが、地方には確実に増えているのです。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。






