世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

食通は北九州市を目指す!? 福岡市よりも寿司がウマいと言われる理由Photo: Adobe Stock

実は寿司ネタの宝庫である北九州市

 前回、北九州市の「照寿司」に外国人富裕層が殺到しているという話をしました。
 こうした世界レベルの店を自治体が放っておくはずはありません。照寿司が火付け役のひとつとなった、北九州市の寿司ブームをより一層盛り上げるために、2025年4月、北九州市は全国初となる「すしの都課(みやこか)」を新設しました。

 目的は、「美食の街 北九州」として、北九州市を国内外に訴求すること。
 現時点では、寿司は近隣の福岡市のほうがメジャーですし、何より、北九州市は過去のなごりで危険なイメージがつきまとう地域です。そのため長年、ブランディングに苦労してきたという歴史がありました。

 しかし、実のところ、北九州市は「すしネタ」の宝庫です。

 玄界灘しかない福岡市とは異なり、北九州市は、玄界灘、響灘、周防灘の3つの海と関門海峡に囲まれ、深海から近海、沿岸に棲息する魚、そして回遊魚など多種多様な魚が獲れます。
 しかも、関門海峡は潮がきつく、潮汐の干満によって流れの方向が変化するため、身が引き締まった極上の魚が獲れるのです。特に白身魚が素晴らしく、こうした恵まれた環境で北九州市の寿司屋は日々、研鑽を積んでいるのです。

 実は私、2025年5月から、北九州市参与(食の魅力戦略担当)を仰せつかりました。まだまだ埋もれている北九州市の寿司の魅力を発掘し、発信していく予定です。

塩と柑橘で食べる小倉前(こくらまえ)

 北九州市には古くから知られる名店「天寿し」もあります。

 天寿しの初代は、せっかく旨い白身魚があるのに醤油で食べたらもったいないと考え、塩と柑橘で食べる「小倉前(こくらまえ)」と呼ばれる手法を広めたといわれています。現在は息子の兄弟で2店を経営していますが、そこから巣立った職人たちも、小倉前を北九州市ならではの食として広めています。

 このように、新進気鋭の照寿司、そして北九州市ならではの食を提供する天寿しという、新旧の力を中心にして、北九州市をアピールしていきたいと私は思っています。

 すでに、ユニークな取り組みも始まっており、2025年6月には、富山県と「すし会談」を実施(富山県も寿司で町おこしをしているため。本書のP94参照)。8月には大阪で、連携協定締結イベント「大阪夏の陣」も行われました。

 天寿し・照寿司を起点としたガストロノミーツーリズムのムーブメントは、ますます活性化していくことでしょう。

 ※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。