その後、桃井さんは、この時の言葉を体現するかの如く、ハリウッド映画のオーディションを受けたり、自分でメガホンを取って映画を撮ったり、それまでとは違う活躍をされていった。
ハッとさせられるような言葉が桃井さんの口から次々と飛び出した対談だったが、冒頭であげた言葉について、読者に注釈を加えておかなければいけない。
確かに数学者たちの研究がもたらす新たな発見に伴って、数学という学問自体は高く積み重ねられ、より深く豊かな理論体系になっていく。しかし、新しいことを見つけた研究者自身は、研究者を続けるのであれば、1つの研究を終えて、また新しい研究と格闘しなければならない。その点では俳優業と同じだ。新たな発見が積み重なっていって数学者は以前より悠々としていられるようになるのかというと、そんなことはないのだ。
社会の中でただ生存するだけか
生き甲斐ある人生を生きるか
To live is the rarest thing in the world. Most people exist, that is all. Oscar Wild
(「生きている」というのは、この世で滅多にお目に掛かれないことだ。なぜなら、ほとんどの人はただ「存在している」だけだから) オスカー・ワイルド(アイルランドの詩人、作家、劇作家)
発達心理学の泰斗であった故・岡宏子先生(聖心女子大学名誉教授)は『生きているうちは活きて』(婦人生活社)という著書の中で、「生きるということは、ただ生きて長らえることではなく、目的をもって心が溌剌として活きることだ」という主旨のことを書いているが、オスカー・ワイルドの言わんとしていることと同じであろう。
ジャン・ジャック・ルソーは、「人は2度生まれる。1度目は生存するために、2度目は生きるために」と言った。ルソーが“2度生まれる”と言っているのは、1度目の誕生は母親から生まれ落ちた瞬間を、2度目の誕生は、自我に目覚め、社会の中で自分はどうやって生きて行くのかを模索し、親の庇護から独立して行く20歳前後のことを指しているそうだ。







