しかし、先ほどの表を思い出してみよう。9月から6月の間に起こったことを見ればわかるように、学校教育には効果がある。成績が振るわない子どもにとって、学校教育の唯一の問題は、むしろ学校で勉強する時間が足りないということだ。

アジア人が数学を得意とする理由
授業日数の差が学力を左右する

 実際、アレクサンダーは、ボルチモアの子どもが1年を通して学校に通ったらどうなるかを、ごく単純な計算で示している。その結果、小学校の卒業時で、貧しい家庭の子どもも裕福な家庭の子どもも、数学と読解力の成績がほぼ同等になるということがわかった。

 そう考えると、アジア人は数学が得意なのも、ますます自明の理ということになる。アジアの学校には長い夏休みは存在しない。それも当然だろう。アジアには、1年のうちの360日で夜明け前に起きることが成功につながると信じる文化がある。そんな文化が、子どもに3カ月もの長い夏休みを与えるはずがない。

 アメリカの学校は、平均して1年に180日授業がある。韓国の学校は220日。そして日本の学校は243日だ。

日本とアメリカの高校生
数学テストの差はどれくらい?

書影『Outliers 思考と思考がつながる 最適解がみえる頭の主になる方法』(マルコム・グラッドウェル、サンマーク出版)『Outliers 思考と思考がつながる 最適解がみえる頭の主になる方法』(マルコム・グラッドウェル、サンマーク出版)

 最近、全世界の生徒を対象にした数学のテストで受験者に出された質問の中のひとつに、代数、微積分、幾何の問題のうち、学校で習った内容で解けた問題はどれくらいあったかというものがあった。日本の12年生(高校3年生)の答えは92パーセントだった。これが、1年に243日、学校に通うことの価値だ。学ぶ必要のあることをすべて学ぶ時間を確保できる――それに、学んだことを忘れてしまう時間も少ない。

 対して、アメリカの12年生の答えは54パーセントだった。アメリカのもっとも貧しい家庭の子どもにとって、問題は学校の授業ではない。これは学校問題ではなく、夏休み問題だ。