よし彦はゲイの聖地・新宿2丁目の店でマリと名乗り働き始めた。バブルの残り香がある時代だ。お客さんからのチップは名刺代わりの1万円だった。
「初めましてマリです~。チップありがとうございます。お客さんは福澤(諭吉)さんというお名前ですか~」
と場を盛り上げるともう1万円もらえた。
2丁目で働くのは面白かった。あるときゲイ仲間と盛り上がり、明け方に近くの公園で焚き火をしていると、『ザ・ブルーハーツ』でブレイクする前の甲本ヒロトが現れた。
「ヒロトくん、お疲れ~」
ゲイたちは顔見知りのようで、後に時代を作るカリスマ歌手と楽しげに飲んでいた。
ゲイバーは実入りがよかったが、寮に入るという規則があった。同室は「私は日本一のオカマになるのよ」という青森から出てきたじゃがいも顔のゲイ。同室の彼によし彦はノンケ(異性愛者)であることを隠さなければいけなかった。
しかし、平気な顔をしてよし彦は寮に女の子を連れ込んでいた。あるとき、そのゲイとケンカをしたら「よし彦はノンケよ」とママに告げ口をされた。結局、ゲイバーをクビになった。
旅行先のパリでそのまま失踪し
移民のアルジェリア人と同居する
仕事を失ったが、ゲイバーでのバイトで50万円ほどの貯金ができていた。よし彦はフランスのパリに行ってみたかった。フランスの詩人・ボードレールを愛読していたし、パリには、ロックバンド『ドアーズ』のジム・モリソンの墓がある。パンクの本場ロンドンにもよってみたい。よし彦はパリ行きのパックツアーに申し込んだ。
イギリスの詩人・バイロンに「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるが、旅行先のフランス・パリでよし彦は失踪することになる。
「若かったんで、怖いものはなにもない。だから旅行者が絶対行かないような飲み屋に顔を出してました。当時、僕はバンドマンのファッションをして、髪の毛を青く染めていました。そんなアジア人だから珍しがられたのか、アルジェリアからの移民に話しかけられて一緒に飲んでたんです。でたらめな英語で、好きなバンドの話をしていました。『いつまでいる』と聞かれたので『明後日』と答えました。『お別れパーティーやろう!明日またここで会おう』。翌日も彼らと盛り上がり、お店は閉店時間。まだ飲み足りないので、アルジェリア人のアパートに行き、飲み続けました」







