目が覚めると、パックツアーの帰国の飛行機が出ている時刻だった。アルジェリア人たちは、事情を理解するとホテルまでタクシーで送ってくれた。もちろんパックツアーの一行はいない。当時は添乗員がツアー参加者全員のパスポートを預かっていた。

 彼らは空港にまでついてきてくれたが、添乗員どころか、荷物もなにもなく、あるのは手元の現金7万円のみ。

 今だと「日本大使館でパスポートを再発行」「日本と連絡を取り送金してもらう」などの解決策が浮かぶ。しかし、17歳の青年はなにも考えられずパリの空港に立ち尽くしていた。

 今頼りになるのは、そばにいるアルジェリア人だけだ。彼らは底抜けに優しかった。

「もし、行くところがないなら、一緒に住むか?」

「本当?助かる。ありがとう!ところで君たちはなんの仕事をしてるの?」

「え!オレたちはスリを仕事にしてる」

 話しているととてつもなくいい奴らだが、正体は在留資格がなく、犯罪を生業にする不法移民だった。一瞬、戸惑ったよし彦だったが、選択肢はない。その日からアルジェリア人スリ軍団の仕事を手伝うことになった。

プロのスリ集団の一味に加わり
盗んだ金でパリ生活を満喫した

 スマホがない時代にはほとんどの旅行者が大きな荷物と地図を持っていた。

 よし彦が日本人の旅行者に声をかける。

「日本人ですよね。なにかお探しですか?」

「日本語が話せる人がいるんだ。ルイ・ヴィトンのお店はどこですか?」

「ルイ・ヴィトンならこの道を真っすぐ行って左側ですよ」

 教えているうちに日本人の身なりをチェックする。金がありそうでスリができそうなら、アルジェリア人たちにサインを送る。彼らはスリのプロフェッショナルだ。獲物の日本人から金品を巻き上げる。

 今は発行停止になったが、当時はトラベラーズ・チェックが主流だった。トラベラーズ・チェックとは、購入すると海外旅行に行ったときに、現金がわりに使用できる旅行小切手のことだ。紛失・盗難のときは再発行ができた。

 アルジェリア人のスリ集団が日本人のトラベラーズ・チェックを手に入れても、漢字が書けないので今までは捨てていた。そこでよし彦の出番だ。銀行や両替所で日本人の身なりをして漢字を書くだけで金が手に入った。