アジトは15畳ほどの部屋だった。アルジェリア人は3人、そこによし彦が加わって4人で暮らした。犯罪をするグループは10人ほどで、部屋のメンバーはときどき入れ替わった。
「楽しかったな。あのときのみんなはなにをしてるんだろうね」
メンバーにルーブル美術館の掃除夫がいて、美術館に無料で入り、1日過ごすことができた。ボードレールとジム・モリソンのお墓にも参った。1日の終わりには、盗んできたワインやチーズを持ち寄りセーヌ川のほとりで飲んだ。盗賊の仕事で疲れ切った体にワインが染みる。まるで、フランスの名優ジャン=ポール・ベルモンドが出てくる映画のワンシーンにありそうだ。
怪しい日本人として噂されていた
これで「やっと日本に帰れる」
スリの手伝いをしながらの生活は半年間に及んだ。
「半年もいれば、アルジェリア人の言っているフランス語も少しずつ理解できてきました。このままスリ集団の一員として頑張ろうと思っていたとき、捕まりました……」
それ以前から「怪しい日本人がスリの手先をやっているらしい」というウワサが広まっていた。逮捕された場所はパリの有名観光地・コンコルド広場。警察に捕まり、最初ははぐらかしていたが「一生日本に帰れなくなるぞ」と脅されると、よし彦は観念し、名前と生年月日を答えた。すると捜索願が出ていると言われた。
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(松本祐貴、星海社新書)
日本大使館に連行される。
「旅行会社があなたを探しているようで、所在調査が出ています。そしてスリの手引きという犯罪を犯し、ビザがないあなたはフランスからの強制退去処分となります」
この言葉を聞いて、よし彦は「やっと日本に帰れる」と思った。最後に仲間たちにあいさつをしたかったが、連絡をすれば彼らも逮捕されるのであきらめた。
「もし、あのタイミングで捕まらなかったらずっとフランスで暮らしていたかも」
生命力を感じさせる言葉だ。きっとよし彦がそのままフランスにいたら、観光客の国籍ごとに対策をとった大スリ団を結成していたのではないだろうか。







