起業して月200円!明治を生きる銀二郎(寛一郎)の収入で当時買えるものがすごかった!〈ばけばけ第62回〉

明日の休みが楽しそうじゃないトキ

 月に200円と聞いて、明治24年(1891年)の松野家はみるみる色めき立つ。

 ちなみに、週刊朝日編『値段誌年表 明治大正昭和』によると明治22年(1889年)の国会議員の報酬は800円。上には上がいる。時代で価値がだいぶ違うので参考になりにくいが、明治33年(1900年)のダイヤモンド1カラットが200円。給料の1カ月分でワンカラットの指輪が買える。

 籍は抜いていないからいつでも戻れると言う司之介に、うれしい銀二郎。

 あとはトキ次第。でもそれこそが問題だ。

 明日を楽しみに、銀二郎は花田旅館に泊まる。銀二郎の部屋と目と鼻の先にヘブンの家がある。

 いま頃、トキは、そこで働いていることだろう。

 労働の大変さは微塵(みじん)もなく、その夜、「今日も楽しかったですね」と怪談語りを楽しんでいる。

「明日はお休みをいただきます」とトキは明日のお休みのためのもろもろの支度を、イラストつきで解説しながら用意をしている。

「心配 何もできない」と心配顔のヘブン。

 たった1日なのに、なんだか離れがたい気持ちが漂う。

 明日はトキにとってもヘブンにとっても楽しい再会が待っているはずなのに。

 トキは思い切って、前の夫に会うと告白する。

「布団」(怪談「鳥取の布団」を教えてくれた人)
「はい」
「知り合い、ない」
「すんません、連れ合いでした」

 間をおいてトキは「先生も、明日、楽しんできてごしなさい」「イライザさん来るんですよね」と返す。

「ええ日になるとええですね」
「トキ師匠も」
「では明後日に」

 もどかしすぎる。完全にお互いに引かれ合っているのに、思いがけず、へんな方向に進んでしまっていることに戸惑っているようなふたり。これじゃあなんだか銀二郎とイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)がおじゃま虫的で気の毒になってくる。

 史実にあった洋妾疑惑。それをドラマに描くことを関係者がゆるしたのは、ヘブンは洋妾をもつ意思はなく、このような純愛路線になるからだったのだろう。

 実際はここまで純愛路線じゃなかったのではないだろうかと筆者は想像する。もっとも友達の少ない者同士が、珍しく趣味の合う人に出会って急速に引き合っているというのはさほど珍しいことでもないだろう。いや、でも銀二郎も同じ趣味を持っているからなあ。筆者は銀二郎派なので、この展開にもやもやしてしまうのだ。