赤い薬を飲むと周囲の世界が欺瞞であったことに気づき、新たな思考を持つことができるが、青い薬は飲んでも現状維持となり、何も変わらない。主人公は、その先の世界を知ろうと赤い薬を選ぶ。
崔によれば、韓国で当たり前とされた家父長制が崩れたのがIMFショック(編集部注/1997年、韓国が通貨危機に陥り、国際通貨基金から資金支援を受けるに至った)だった。
失業率が高まる中で、男性が家長として家計を支えるモデルが説得力を失う。そこにマーズ事態が起きた。崔は、「なんとなくおかしいなあと思っていたことが、はっきりと家父長制度は理不尽だということに気がついた」と語る。
崔は次のように話す。
「女の子はかわいくて控えめでなくてはいけなくて、条件のいい男性と結婚しても、旦那の稼ぎだけでは暮らしていけないので働かなきゃいけない。でも家事はこなす。そんな風に女性が犠牲になることが当たり前になっていた家父長制の観念というのはもう成り立たなくなっていたのに、それがそのまま維持されようとしていたことを知ったわけです」
崔は、上の世代にとって当然とされてきた女性の立場を疑うようになったという。
「私たちの世代は、母親が働きに出ている家は半分くらいでした。私の母は専業主婦で、家のことはすべてやっていました。私には兄がいますが、家で何かを“お手伝い”する時は必ず女の子がやるような時代でした。
それが、IMFショックが起きて、女性も働くようになって、生計の責任も半分負うようになった。今では結婚の条件自体が共働きです。女性はもう企業の重要な構成員になっているのに、相変わらず家庭のことをやりくりしなきゃいけない、家庭のプロジェクトリーダーのままです。
結婚を選択できる今の時代に、完全に犠牲にならなければならない家庭なのであれば、私はやっぱり仕事を選びますね」
行き過ぎた平等が
男女の分断を生み出した
男性の立場から韓国の低出生率の背景にやはりジェンダーの問題があると話したのは許太鎬(32歳、仮名)だった。
許は、韓国では女性への配慮が多すぎる、と少し強い口調で言う。







