小泉:なるほど。中東諸国の単純な戦力で言うと、サウジアラビアはトップクラスの軍備・装備を整えています。実戦経験で言えば、エジプト軍が最強でしょう。

 イスラエルからすると、この2国を抑えていれば、とりあえずは国家間戦争で国が滅びる危険性は低下する。イスラエルにとって残る懸念はイランの核になるわけですね。

小谷:そのとおりです。国土が狭く人口も少ないイスラエルにとって、核による一撃は致命的です。ゆえに周辺国の核開発はイスラエルにとって絶対に許容できない。

 そのため1981年6月には、核開発が進められていたとされるフセイン政権のイラクに対して原子炉空爆を行ない、2007年9月にはシリアの核施設へ空爆を行なったわけです。

学者を殺害までして
イランの核開発を妨害

小谷:イランの核開発も長年懸念されていたのですが、2000年代に入って実際に発覚して以降、イスラエル側の警戒感は最大限に高まります。

 イスラエル側の試算では、イランは2015年までには核武装する可能性が高いというもので、それまでに何らかの手を打つことが求められていました。しかしイランへ空爆を行なうには距離があるうえに他国の領空を通過する必要があり、またイラン側も空爆を恐れて施設を地下に移すなどしました。

 2009年頃にネタニヤフ首相からモサドのメイル・ダガン長官に対して、イラン空爆の検討を命じられたようですが、当時、空爆は難易度が高く、成功したとしてもイラン側からの報復や国際世論の反発も予想されたので、空爆の選択肢は退けられたようです。

 そしてモサドは代案として、(1)外交的なイラン包囲網の形成、(2)対イラン経済制裁、(3)イラン国内の反体制派への支援、(4)イランへの核物質の供給遮断、(5)核開発の妨害、といったものが検討され、モサドとしては(5)を中心に秘密工作を進めることになります。

小泉:ここで言う「核開発の妨害」というのは、開発に携わった核物理学者たちの殺害ですよね。