ちなみに日高はずっと会社に泊まりっぱなしでソファで寝ていた。
当時の自分たちを突き動かしていたのは、絶対成功してやるという気持ちはもちろん、それよりも強かったのは、「投資した人や採用した人を裏切れない」「周囲に予想された通りに失敗するわけにはいかない」という切迫感だった。日高には「もうあの頃に戻りたくない」という気持ちもあっただろう。
私が社長を務めるFC町田ゼルビアの黒田剛監督がよく使う言葉に、「悲劇感を揺さぶれ」というのがある。
黒田監督は青森山田高校でもゼルビアでもその手腕を発揮し、若いサッカー選手たちを見事にマネジメントしている。
彼らがZ世代だとすると、Z世代の若者は、「優勝したら100万円もらえる」と言われても、毎日の練習が苦しくて辛いとそれを乗り越えるほどは頑張れない。
しかし、「優勝を逃したらみんなで100万円払わなきゃいけない」となった途端に必死になるという。
今の若い世代は、自分のせいで仲間に迷惑を掛けたくないという気持ちはとても強い。一方で、どうしても100万円欲しいというようなハングリー精神は持っていない。
豊かな時代だからこそ
「悲劇感」の煽りが効く
これはZ世代に限った話ではない。私のような50代も飽食の時代に生まれ育ち、満たされた生活を送ってきて、それ以上の何かを求めるようなモチベーションはたいして高くない。
だから、何らかの夢や理想を掲げて頑張るのではなく、失敗したり諦めたりしたら、仲間に迷惑がかかる、今の仕事を失う、恥をかく、などのイメージを喚起するのがマネジメントの正解なのだと考えてきた。
それを何と言えばいいのか、長年モヤモヤしていたけど、「悲劇感を揺さぶれ」と表現した黒田監督の言語化する力は流石だ。自分たちがやってきたことが何なのか、しっくりくる。
他社の経営者から、サイバーエージェントの社員のモチベーションが高いことを羨ましがられることがある。
『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(藤田晋、文藝春秋)
根底に流れるのは私や日高が自分たちに課してきたように、下から火で炙られるような感覚であることは確かだ。それを組織運営の中で創意工夫して盛り込んでいる。
バブル経済も崩壊した20世紀の終わりに創業し、自分より下の若い世代の社員を集めてきた我々は、仕事の場で、本当の辛さや厳しさを乗り越えるのに必要なのは、夢や理想ではないと捉えてきた。
それを人事制度にも盛り込み、「悲劇感」を揺さぶり続けて25年以上、ゼロから始めた会社が売上高8000億円、社員8000人近くにまで拡大してきたのだから、このマネジメント手法で、なかなか遠くまで行けるということである。







