でも、話が始まると「がははは」って豪快に笑いながら、まったく飾りっけがない。きっと男がほれる男ってこういう人なんでしょうね。(朝日新聞、2000年6月27日)
さらに、「ギャ」をつけることもあります。
なにしろ笑い盛りの女の子たち。ギャハハハと身をそらして大笑い(毎日新聞、1993年2月14日)
「ガハハハ」「ギャハハハ」は、「ハハハ」よりもさらにあけっぴろげで飾りっけのない笑い声です。こんなふうに「ハ」の音を使った笑い声だけは、語頭に「ア」「ワ」「ガ」「ギャ」などを冠して強調形を作ることが多い。そうした強調形を創り出したくなるほど、「ハハハ」の笑い声が頻用されているということです。
さて、現代の笑い声で、最も使用され代表と言えるのは、確かに「ハハハ」という「ハ」の音を使ったものであることが分かりました。でも、「ハハハ」は、どちらかというと男性の笑い声のような気がします。本当に、女性の笑い声をも含めた現代の笑い声の代表と考えていいのでしょうか?
というのは、私には、こんな記憶があるからです。「女性は、大口開けて笑うものではありません。口に手を当てたり、口をすぼめるようにして笑いなさい」と言われた記憶です。つまり、第二次世界大戦以前の日本では、男性と女性で笑い声を表わす言葉が違っていたのではないかと思われるのです。
私の育った時代は、古い時代の思想から戦後の新しい欧米思想に移る過渡期なので、古い考え方が残っていたと思えるのです。早速、調べてみます。
「ハハハ」と笑う女たちは
どのように描かれてきたのか
夏目漱石の作品では、「ハハハ」という笑い声をあげているのは、すべて男性で、女性は皆無なのでしょうか?漱石の作品には、先ほども言いましたように、「ハハハ」の笑い声は196例見られます。これらの用例を、逐一、男の笑い声か女の笑い声かを検討していくと、確かに191例までは、男性の笑い声です。でも、残りの5例は、間違いなく女性の「ハハハ」です。
八の字の尾に逆か立ちを命じた様な髯を見るやいなや御多角はいきなり台所へ引き戻して、ハハハハと御釜の蓋へ身をもたして笑った。(夏目漱石『吾輩は猫である』)
これは、下女のおさんの笑い声です。







