まずは、「ホホホ」を専売特許的に使う女性の笑い声の例から。

「甲野君に聞こうと思ったんですけれども、早く上がろうとして急いだもんですから」
「ホホホ」と突然藤尾は高く笑った。男はぎょっとする。(夏目漱石『虞美人草』)

『虞美人草』で高慢な女性として登場する藤尾の笑い声が「ホホホ」。

 さらに、控えめな感じを出す時は「オ」をつけた「オホホホホホ」を使っています。

「オホホホホホ面白い事ばかり仰って、どこに生きていらっしゃるんです」
「静岡に生きてますがね、それが只生きてるんじゃ無いです。頭にちょん髷を頂いて生きてるんだから恐縮しまさあ。」(夏目漱石『吾輩は猫である』)

「オホホホホホ」は、教養ある上品な女性の笑い声。相手の言うことが面白かったので、控えめな品のある笑い声をあげています。

 漱石の作品のみならず、同時代の作家の作品でも、女性の笑い声は、しばしば「ホホ」「ホホホ」などと「ホ」の繰り返しで表わされています。

「ほほほほ、あんな言を!あの山木さんをご存じでいらっしゃいますの?」(徳冨蘆花『不如帰』青空文庫)

「ホホホホ」は、女主人公浪子の笑い声です。

 外なるはおほほと笑うて、「お父様、私で御座んす」といかにも可愛き声、(樋口一葉『十三夜』現代日本文学大系)

 格子戸の外で「オホホ」と笑ってみせているのは、離婚を決意して実家に戻って来た関と呼ばれる女性。親に心配させまいと無理に笑い声を出しています。

 これらの「ホホホホ」「オホホ」は、品良く振る舞っている女性たちの笑い声です。

漱石作品に登場する
「ホホホホ」と笑う男

 漱石の作品の中で、男性なのに、「ホホホホ」と笑う例が4例出現していました。その用例は、すべて、『坊ちゃん』に登場する「赤シャツ」とあだ名された教頭先生の笑い声です。彼は、「妙に女の様な優しい声を出す人だった」と記されています。そのため、笑い声も「ホホホホ」と記されている場合が4例あります。

 あの岩の上に、どうです、ラフハエルのマドンナを置いちゃ。いい画が出来ますぜと野だが云うと、マドンナの話はよそうじゃないかホホホホと赤シャツが気味の悪い笑い方をした。(夏目漱石『坊ちゃん』)