「ヒュイッと打つ」「サクサクした砂」など、世の中にはオノマトペが溢れている。このままAIが進化すると、こういったオノマトペをうまく言語化して人類のコミュニケーションに一役買う可能性がある。日本の情報工学をリードする研究者で師弟の間柄でもある暦本純一と落合陽一が「テクノロジーの変化がもたらす未来」について語る。本稿は暦本純一、落合陽一『2035年の人間の条件』(マガジンハウス)の一部を抜粋・編集したものです。
「身振り手振り」を
言語化するには?
落合 僕は、ダイレクト・マニピュレーション(*1)をしながら喋るというシチュエーションをいつも考えるんですよ。
暦本 イタリア人は日常的にそんな感じですよね。両手を盛んに動かして「こんな感じのアレが」とかイメージを伝えながら、口でもベラベラ喋る。イタリア人はコミュニケーションの30%はダイレクト・マニピュレーション(笑)。もちろんイタリア人に限らず、ジェスチャーで言語をサポートすることは誰にでもあるし、原始人のコミュニケーションはイタリア人よりもダイレクト・マニピュレーションが多かったんじゃないかな。
落合 たしかに人間はダイレクト・マニピュレーションをしながら喋るんですけど、プロフェッショナル・ツールは喋らないで使うことが多いですよね。たとえばかなづちやノコギリは黙って操作するかもしれない。寿司職人の包丁とかも。
暦本 道具を使っている本人はダイレクト・マニピュレーションだけど、その人に言語で指示する人間はいますよね。「何やってんだおまえ」とか「そこはそうじゃねぇ」とか、寿司屋の大将がツベコベいう(笑)。
落合 ああ、そうか。そういうとき、言語化するのが難しいコツってあるじゃないですか。身振り手振りでダイレクト・マニピュレーションするしかないようなノウハウ。それを言語化できるといいですよね。
暦本 昔、長嶋茂雄(*2)が若手選手に「ヒュイッと打つんだよ」みたいな表現でバッティングの指導をして、相手を困惑させていたのを思い出した(笑)。
落合 僕はオノマトペの研究が好きなんですよ。「ヒュイッ」とか「シュイッ」とか「ニュイッ」とか、言語規定としては面白い。「ヒュイッ」というオノマトペから画像を出して、その画像をまた言葉に直すと「ヒュイッ」に戻ったりする。つまり音象徴と形とかの象徴が抽象化されているので、それと生成AIの組み合わせが面白い。