白いポメラニアン写真はイメージです Photo:PIXTA

犬は「わん」と鳴く、と思いがちだが、平安から江戸初期にかけて犬の鳴き声は「びよ」「びょう」と聞かれていたという。日本語学者・山口仲美氏は、鳴き声の変化をたどることで、人と動物の距離感の変遷が見えてくると語る。その理由とは?※本稿は、日本語学者の山口仲美『男が「よよよよよよ」と泣いていた 日本語は感情オノマトペが面白い』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

言語はどのようにして誕生したのか
言語の起源とオノマトペの関係

 言語は、どのようにして誕生したのか?実にさまざまの説が出ていますが、その中の1つに擬音語説(模倣理論とも)があります。自然界の音(=動物の鳴き声や水・風の音あるいは生理現象に伴う音)を模倣しはじめ、それをもとに言語を作ったとする説です。

 今も、根強い支持があるのですが、自然界からの刺激を直接受けない抽象的な事柄を表わす語の由来が、うまく説明できないのです。でも、基本的な語の中に、オノマトペ出身の語が多く見いだされるということは、オノマトペが言語の起源に何らかの関係を持っている可能性を示唆していますね。

 言語の起源に関しては、最近「即興のジェスチャーゲーム」から生まれたという説が話題を呼んでいます。モーテン・H・クリスチャンセンとニック・チェイター著、塩原通緒訳の『言語はこうして生まれる』(新潮社、2022年11月)です。身振り手振り、発声、あるいはその両方を使って、自分の意思を双方的に伝え合うジェスチャーゲームのようなものが言語の起源だと考えるのですね。なかなか魅力的な言語起源説です。