1992年の施行から30年余り
社会ニーズに応じて制度は充実に

――育児・介護休業法等は古くからある制度ですね。どのように変遷してきたのでしょうか。また、育児休業と違って、介護休業にはどのような制度活用上の難しさがありますか。

 育児・介護休業法の歴史は、平成5年(1992年)の育児休業法の施行に始まります。その後、95年に介護休業が加わって育児・介護休業法となってから約30年が経過しました。この間、社会のニーズに応じて段階的に制度が充実してきました。

 95年に介護休業制度が創設された当初は、1回限り3カ月の休業という形でした。その後の改正で、介護休暇制度、所定外労働の制限(残業免除)など、さまざまな制度が徐々に付加されてきました。

 介護休業制度自体も大きく進化しています。当初は1回限りだった取得回数が、現在では3回まで分割可能となりました。これは、介護には段階があることを踏まえた改正です。

 例えば、介護の必要が発生した初期に在宅介護サービスを導入する段階、要介護度が上がり施設入所を検討する段階、最終的な看取りの段階など、一般的に3回程度は休業が必要になる可能性があるという認識に基づいています。全体の期間は93日で変わりませんが、分割して使えることで、より実態に即した利用が可能になりました。

 介護と育児の最大の違いは、予測可能性と期間の明確さです。育児は基本的に出産時期を事前に予測することができ、ある程度の準備が可能です。また、子どもの成長という明確なゴールがあり、小学校への入学などの節目も予測できます。一方、介護は突然始まり、いつまで続くか分からないという特徴があります。

 また、職場での受け止められ方も大きく異なり、介護は育児と違ってオープンにしにくいというのは前述した通りです。

 さらに、制度の使い方においても、根本的な違いがあります。育児休業は、実際に子どもの世話をするための期間として機能します。1年の育休を保育所への入園ができない場合に2年に延長することは、育児支援として意味があります。しかし、介護休業を長期化することは必ずしも効果的ではありません。

 例えば法定の3カ月を3年に延長している企業もありますが、仮に3年間自分自身で介護に専念してしまうと、職場復帰後の介護はどうするのかという問題が生じます。長く休めば解決するものではなく、さまざまな介護サービスや両立支援制度を活用しながら、いかに働き続けるかが重要なのです。

 仕事と介護の両立のもう一つの難しさは、当事者意識を持ちにくいことです。育児は周囲に子育てをしながら働き続けている人も多く、自分事としてイメージしやすいですが、介護については特に若手の時期には周囲に家族介護に直面した人は少なく、仕事と介護を両立することが具体的にイメージしにくいことが背景にあると考えられます。

 仕事と育児・介護の両立支援制度は、いずれも育児・介護休業法という同一の法律に定められていますが、実際の企業での運用に当たっては、こうした育児と介護の性質的な違いも認識した上で、制度の設計や具体的な実施方法、社員への伝え方などを工夫していく必要があると考えています。