部下は仕事で消耗するだけでなく、プライベートの事情でも消耗します。では、上司は部下のプライベートの事情にどこまで関わるべきなのでしょうか?「それはプライベートでしょ?」と突き放せば信頼は得られませんが、プライベートに深い入りすれば上司のリソースが枯渇します。この記事では、新刊『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』から抜粋しながら、プライベートで問題を抱える部下への対応法の基本原則をお伝えします。

「部下のプライベート事情」にどこまで寄り添うべき? 賢い上司の「一線」の引き方Photo: Adobe Stock 写真はイメージです

「プライベートの消耗」にどこまで配慮するのか

 メンバーは仕事で消耗しているだけではありません。

 子育て、介護、パートナーとの関係性……こうしたプライベートの問題で消耗していることも多々あります。ですから、「最近、元気がないな……」「ミスが多いな……」と思うメンバーがいたら、職場での消耗要因を探るだけではなく、プライベートにおける消耗要因にも目配りをする必要があります。実際、メンバーが抱えている深刻な事情を知って、「こんなにたいへんな思いをしながら、仕事を頑張ってくれていたんだ」と驚くリーダーは数多くいらっしゃいます。

 ただ、多くのリーダーは、ここで悩みます。

 なぜなら、「会社の仕事」と「プライベート」は、どこかで一線を引かなければならないからです。そのため、プライベートで困難を抱えているメンバーがいるときに、「その問題に、会社としてどこまで配慮すべきなのか?」という迷いが生じるのです。

 そして、こう判断するリーダーもいらっしゃいます。「仕事とプライベートは切り分けて考えなければならない。だから、仕事にプライベートの問題を持ち込むべきではないし、会社の人間がプライベートに踏み込むべきではない」

 しかし、これは理屈としては筋が通っているかもしれませんが、「メンバーがプライベートで消耗しているのに、それを一切考慮しない」のは、メンバーとの信頼関係を構築するという観点からは決して望ましい態度ではありません。

 そのような、あまりにもクールな対応をするリーダーに対して、メンバーは「この人は自分の苦しみを理解してくれない」と不信感を抱くかもしれませんし、「プライベートのことを言い訳にはできないから、身体にムチを打って頑張るしかない」と無理に無理を重ね、より一層疲弊していくかもしれません。それは、リーダーとしては避けるべきことです。

まずは、メンバーの「要望」を把握する

 では、このようなときに、リーダーはどのように対処したらいいのでしょうか?

 具体例をもとに考えてみましょう。

 私のクライアント先の営業チームで起きた出来事です。

 営業チームのリーダーである田中課長は、久保田さんのことを心配していました。

 というのは、ある時期を境に、急に元気を失っていたからです。会議では上の空でいることが増え、ミスも目立つようになってきていたのです。

 そこで、田中課長は、「久保田さん、最近どうしたの? 何かあった?」と声をかけました。しばらく沈黙したあと、久保田さんはこう打ち明けました。「実は、父の介護を始めることになって……。夜中に起こされることも多くて、睡眠不足が続いているんです。慣れない介護で、パートナーとの関係もぎくしゃくしていて……」

 田中課長はすぐに解決策を口にせず、一呼吸おいて、こう答えました。

「そうだったんですね。介護は本当に大変なことだと思います。今、久保田さんがとても大きな負担を抱えていることを理解しました」

 この言葉を聞いた瞬間、久保田さんはホッとしたように表情を和らげました。その表情の変化を確認したうえで、田中課長は、さらに「この状況について、チームにはどこまで共有しても大丈夫ですか? そして、私たちにどんなサポートを期待しますか?」と質問。久保田さんは、少し考えてからこう答えました。

「無理でなければ、みなさんにも伝えていただけるとありがたいです。“介護を理由に甘えている”と思われるのが怖くて、ずっとお伝えするのを躊躇していました。できるだけ、みなさんには迷惑をかけたくないと思っています。ただ、急な呼び出しで早退せざるをえなかったり、睡眠不足で仕事が思うようにできなかったりするときがあることは、ご理解いただけると助かります」

「部下の要望」のすべてに対応する必要はない

 このように、プライベートで困っているメンバーの「要望」を把握することはきわめて重要です。

 ただし、その「要望」のすべてに対応する必要があるわけではありません。会社やチームとして「できること」と「できないこと」の一線を見極めながら、できる限りのサポートを申し出るというスタンスに立つべきなのです。

 このとき、田中課長は、久保田さんに次のような提案をしました。

「急な呼び出しがあったときは、私が久保田さんの仕事を代行するので、早退してもらって構いません。それから、強い眠気に襲われたときには、勤務時間中であっても15分程度の仮眠をしてもらって問題ありません」

 そして、会社の就業規則に定められている、介護休暇をはじめとする制度について説明したうえで、このように付け加えました。

「当面は、先ほど申し上げたような体制で仕事を進めていきましょう。さらに介護負担が大きくなって、仕事にかけられるリソースが減ってしまうようなことがあったら、いつでも相談してください。そのときには、人事部とも連携して、働き方や役割を見直していきましょう」

 その後、田中課長はチームのなかで久保田さんの事情を伝えたうえで、サポート体制について話し合いを進めていきました。そして、チームのメンバーたちも、自然と久保田さんを気遣うようになり、久保田さんの業務をサポートする体制が少しずつ整っていきました。

 久保田さんも「理解してもらえている」という安心感を得たことで、気持ちに余裕がもてるようになった様子でした。しかも、「助けてもらっている」という感謝の気持ちから、「自分でできる範囲で、精一杯チームに貢献しよう」と意欲的に仕事に取り組んでくれるようになったのです。