できることとできないことの「線引き」をする

 私は、田中課長の対応は非常に的確だったと思います。

 リーダーは、メンバーのプライベートな問題を直接解決する必要はありません。大切なのは、まず「受け止める」ことです。

 リーダーに受け止めてもらえたというだけで、メンバーは「すべてをひとりで抱え込まなくてもいい」という安心感を得ることができ、心理的リソースの消耗を食い止めることができるのです。

 そして、メンバーの「要望」を把握したうえで、会社として、チームとしてできる「現実的な対応」を提案します。ここで大切なのは、「できること」と「できないこと」を明確にすることです。田中課長は「早退への対応」「15分の仮眠」については約束しましたが、それを超えることについては、介護休暇などの制度を紹介したり、「ここから先は人事部と連携する」と“線引き”を明確にするにとどめました。こうすることで、お互いの期待がすれ違うことを防いだのです。

 これが、リーダーがとるべきスタンスです。「プライベートは関係ない」と突き放すのでもなく、かといって「何でも支援する」と抱え込むのでもない。そして、会社として、チームとして、「できること」と「できないこと」を明確にしたうえで、「できること」を誠実に遂行する。これが、メンバーの「プライベートの消耗」に対応する、リーダーの鉄則なのです。

(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。