『教養としての量子コンピュータ』の著者である藤井啓祐氏が、国連総会により制定されたユネスコの「国際量子科学技術年(International Year of Quantum Science & Technology)」において、「Quantum 100(世界の量子専門家100人)」に選出されました
「Quantum 100」は、量子科学・量子技術の発展に大きく貢献してきた人物を世界規模で紹介する国際的な取り組みです。研究者や技術者、起業家、コミュニケーターなど、世界中の量子分野の専門家100人が選出されており、藤井氏の研究と社会への発信の両面が国際的に評価されました
本稿では、藤井氏の「Quantum100」の選出を記念して、特別インタビューを行いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【大快挙!】「世界の量子専門家100人」に藤井啓祐氏が選出! 量子コンピュータとの出会いから本当の面白さまで全部聞いてみた!Photo: Adobe Stock

量子コンピュータとの出会い

――この度は、「Quantum 100」へのご選出、誠におめでとうございます。今のお気持ちを教えてください。

藤井啓祐氏(以下、藤井):量子力学100年という節目の年に、このような形で名前を挙げていただけたことを、大変光栄に思っています。

同時に、これは個人に対する評価というより、これまで一緒に研究やプロジェクト進めてきた学生さんや共同研究者、そして事務の方や秘書さん全ての方の貢献があってのことだと思って感謝をしています。

量子コンピュータはまだまだ「未完成の技術」ですが、次の100年も付き合えるだけの面白さがあると思っています。
このような量子の歴史的転換点に研究者としてそのど真ん中の研究ができることが何より嬉しいです。

――「次の100年も付き合える面白さ」と伺うと、とてもワクワクします! そもそも藤井さんが量子コンピュータを研究しようとしたきっかけは何だったのでしょうか?

藤井:もともと私は、エンジンやロボット、そしてロケットといったものづくりに関わりたいなと思って工学部に入学したんです。

ただ、そこで量子力学そのもののシンプルさと不思議さに魅了されました

このような量子力学を最大限に使いこなして何か全く新しい「ものづくり」をしたいと思ったのが、量子コンピュータの研究をするに至ったきっかけです。

――もともと量子コンピュータを研究しよう!と思われていなかったんですね。驚きです……!

藤井:実はそうなんです。

私が研究を始めた頃は、量子コンピュータはあまりメジャーな研究テーマではありませんでした。
私の指導教員も量子コンピュータは100年経ってもできないといつもおっしゃっていました。
ただ私はこれを都合よく激励だと解釈していました(笑)

1量子ビットがやっとでき、2量子ビットもままならないという時代に、量子ビットが1億個あれば頑丈な量子コンピュータが作れます、という理論設計を研究していましたが、なかなか面白いと思ってもらうことは難しかったです。
学会で発表をしても、質問がなく静寂の間数分をただただ耐えるということが多々ありました。

――すごく大変な研究生活……。質問がない静寂の時間を想像するだけで恐ろしいです。

藤井:ただ、おかげで背景知識を共有していない聴衆にできるだけわかりやすく伝える、相手の専門性や聞きたいことを瞬時に捉えて言葉のレベルを合わせる、という技能が身につきました。

最近では、量子情報や量子コンピュータはポピュラーなトピックになってきたので、研究業界ではそういった前提知識の説明などはすっ飛ばすことができる時代になっていると思います。

――ご著書『教養としての量子コンピュータ』や藤井さんのお話がとてもわかりやすいのは、そこに原点があったのですね!
ただそんな大変な研究生活の中でも、今日まで量子コンピュータの研究を続けていらっしゃるということは、藤井さんの中で魅力を感じる部分があるということかと思います。
そんな量子コンピュータの面白さを教えていただけませんか。

藤井:量子コンピュータの面白さは、「自然が従っているルールそのものを計算に使う」という点にあります

自然現象を数式で近似するのではなく、自然と同じ原理で計算する。
これはコンピュータを作るという工学的なチャレンジであると同時に、自然観そのものを問い直す試みだと感じています。

物理を勉強していた頃にはわからなかった現象やトピックも、量子コンピュータを通じて理解をすることで、今では分かったような気になることが多々あります。量子力学という自然界の普遍的なルールと、コンピュータという人工物の極限にある装置が融合した時、自然と人工との区別ができない新たな世界の視点が得られます

――貴重なお話をありがとうございました。後編では、一般の人も楽しめる量子コンピュータや藤井さんが今後挑戦したいことについてお話を伺わせてください!

(本稿は『教養としての量子コンピュータ』の著者への特別インタビュー記事です。)