「世界で勝てる知財経営」の進め方、元キヤノン知財責任者が徹底解説キヤノン元知的財産法務本部長、日本ライセンス協会前会長の長澤健一氏

日本と米国がしのぎを削っていた1980年代から世界の特許出願件数は増え続け、2024年は372万件と過去最多になった。そのけん引役は中国、欧州、インドなどの新興国で、とりわけ中国の24年の出願数は、2位の米国や3位の日本を大きく引き離し、180万件に達した。一方、日本の国内特許出願件数は01年のピークから20年のボトムまで、3分の2程度にまで減少した。特許をはじめとする無形固定資産が企業の成長力の源泉として注目される昨今、世界の成長に追い付けていない日本企業の姿が見える。今後、日本企業は知財戦略をどう考え、どう推進していけばいいのか。日本の「知財経営」の旗振り役として提言を続ける、キヤノン元知的財産法務本部長で日本ライセンス協会前会長の長澤健一氏に話を聞いた。(聞き手/Diamond WEEKLY事業部編集長 小尾拓也、嶺竜一、まとめ・撮影/嶺竜一)

技術の権利化に留まらず
経営に踏み込む「知財戦略」とは

――海外と比べ、日本の企業資産における無形資産(知財・ブランド・ノウハウ・データ・人材など)の割合は相対的に低いです。世界の企業価値における無形資産の割合は7割程度あり、米国S&P500企業における無形資産の割合は9割を占めていますが、日経225企業の無形資産の割合は3割程度しかありません。日本企業の経営層からは、「知財戦略が経営戦略の重要課題であることはわかっているが、どのように取り組んでいいのかわからない」という声がよく聞かれます。彼らの知財戦略に対する考え方や組織構造は、どこに課題があるのでしょうか。

長澤 日本企業の多くが知財戦略の重要性について、本当の意味で理解し切れていないのだと思います。日本企業の知財戦略が外国企業に比べて弱いといわれる理由は、知財が経営の中心に組み込まれていないこと。その理由は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代から「ものづくりで勝ってきた」という思考から完全には抜け切れていないことにあると思います。

 日本企業の技術は今や世界に多くが流出していますが、技術の擦り合わせや、ものづくりの現場における実装や生産においては、いまだ世界トップにいると思います。その点で、日本の無形固定資産の割合が相対的に低いことは、単純に悲観するべきことではなく、ある意味当然のことです。経営上は何とかできている状況もあって、「ものづくりで勝っている」という文化や思考から経営トップが抜けられていないように思うのです。