「世界で勝てる知財経営」の進め方、元キヤノン知財責任者が徹底解説

長澤 特許権は出願の日から20年の権利期間がありますし、知財戦略は本来、10年以上先を見て考えるべきです。組織にとって定期的な人事の刷新は大事ですが、知財など特定の分野においては、例外的な組織運営を考えてもいいと思います。

 また、膨大な案件を扱う日本企業の知財部門でも、他国に比べてDXが進んでおらず、業務の効率化に課題を抱えるケースも多く見られます。こうした現場ではITツールの導入などを検討すべきですし、すぐにでも生成AIの活用を視野に入れるべきです。

 ただし、AI活用には注意が必要です。特許出願の明細書などを、AIを使って作成するのはいいのですが、明細書そのものが「よく書けている」と感心しているだけではダメです。たとえば、「どの競合がターゲットなのか」「解決する場合には交渉か訴訟か」などの活用法によって、特許請求の範囲を広めに書いて多くの会社が抵触するようにするのか、狭くして無効の抗弁を排斥し訴訟で絶対に負けないようにするのかといった事業戦略、経営戦略と照らし合わせて、AIの作った明細書を手直しできる人材が、これからは特に必要です。

 基本的にAIは、公知の情報やユーザがインプットした情報を集めて最適化を図っているので、世界中の訴訟情報や判決の傾向などを反映させることはできるかもしれません。しかし、特許を扱う業務では公知になってない情報、人から聞いた情報や、業界の動向、海外の傾向、自分だけが持っている知見などを駆使することが必要です。AIは駆使するが、戦略に応じた権利の取得や活用はあくまで知財人が決めるという意識が必要でしょう。

コアコンピタンスを
理解することの重要性

――中小企業やスタートアップには、イノベーションによって日本の知財戦略を盛り上げる役割が期待されています。しかし、独自の経営体制や技術開発が光るケースはまだ少ないのが現状です。中小企業やスタートアップの知財戦略はどのように考えたらよいでしょうか。

長澤 中小企業やスタートアップのCEOが正しく知財の認識をしている会社は強いと感じます。私が会長を務めていた日本ライセンス協会の中にも、ベンチャー・スタートアップワーキンググループがあります。企業の中に知財担当者がいないのでCEO自身が来られるケースも多いのですが、そうした企業は知財への認識が高いと感じます。