長澤 重要なのは自社のコアコンピタンスを掴むことです。前述のように、日本企業は長年「ものづくり」で勝ってきた歴史があり、コアコンピタンスを“技術そのもの”と考えすぎる傾向があります。しかし実際は、コンテンツ、調達力、ブランド、人材の技能といった、技術とは全く違うケースもあります。それを理解せず、むやみに技術を特許化することで、逆に他に技術情報を公開するだけになってしまうことすらあります。

――企業が経営戦略と知財戦略を結び付けて「知財経営」に踏み出し、競争力を向上するためには、 どんな考え方や方法論が必要でしょうか。

長澤 大前提として、企業トップに「知財部門は特許の仕事だけではなく、経営そのものに資するべきだ」と腹落ちさせることでしょう。中期経営計画よりもさらに先、10年後、20年後の事業構造がどうなるのか。その長期の経営戦略を前提にして、R&D戦略、事業戦略を描き、そこから逆算して知財戦略を組み立てていく。知財トップはそのための戦略パートナーであり、経営メンバーであると考え、経営戦略を考えるチームの中に置くことが大事です。

 そして知財担当者は、経営企画、事業企画、調達、ブランディングといった他部門の関係者と横断的に関わり、プロジェクトや委員会を通じて経営視点を持つことが必要です。ブランド戦略やコーポレート・ガナバンス・コードの報告書づくりに知財担当者が関与するのも、非常に有効です。そうすることで、経営に近いところで話ができるようになります。

知財を経営に近付ける
3つの方法

 知財部門のトップは、組織を経営に近付ける努力をするべきであり、その方法は3つあります。もし知財トップが役員またはそれに近い立場であれば、経営トップを巻き込んで対話をする「巻き込み型」が有効。知財トップがその立場にないのであれば、経営を動かせる役員に知財活動を深く理解してもらい、二人三脚で経営を動かしていく「抱きつき型」が有効です。そもそも知財部門の組織レイヤーや認知度が低く、前述のどちらも難しい場合は、事業企画、本社管理部門、新規事業部門などの管理職レベルに声をかけ、組織を横断して知財に関連するテーマでプロジェクトやワーキンググループを行うといった「ボトムアップ型」が有効です。

 経営の中枢に入り込み、時には事業部や役員と衝突してでも知財の視点を経営にねじ込む。知財責任者のそうしたリーダーシップがあって、企業の知財部門は初めて「コストセンター」から「競争力の源泉」に変わるのだと思います。

PROFILE
ながさわ・けんいち/1959年生まれ。同志社大学工学部卒。81年キヤノン入社。特許部に配属され、知的財産法務本部に勤務。2001年よりSenior General Managerとしてキヤノンヨーロッパ駐在。08年よりSenior DirectorとしてキヤノンUSA駐在。帰任後、 10年より知的財産法務本部本部長。12年取締役。21年専務執行役員および経済安全保障統括室長。23年から25年まで顧問。キヤノン以外では、日本国際知的財産保護協会会長、日本経済団体連合会 知的財産委員会 知的財産企画部会長、発明推進協会理事、知的財産研究財団評議員、工業所有権協力センター評議員、日本特許情報機構評議員、東京工業大学非常勤講師、 金沢工業大学客員教授、大阪工業大学客員教授、日本ライセンス協会会長、日本知的財産協会副会長、経済安全保障法制に関する有識者会議委員などを歴任。特許庁による平成27年度知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞。