「攻めの知財経営で日本企業の競争力は必ず復活する」特許庁が支援を惜しまない理由特許庁総務部企画調査課長の柳澤智也氏

知財戦略が重要なのは認識しているが、どうやって自社の体制を整備していいかわからない――。こうした悩みを抱える企業の経営者や管理職は少なくない。日本企業の競争力低下や賃金停滞の背景に、「知財の使い方」の構造的な問題があることは、これまであまり意識されてこなかった。無形資産投資の少なさや「稼ぐ力」の低さなど、各種データが示す日本経済の課題は、実は知的財産を「守り」ではなく「経営の武器」として使えていないことと深く結びついている。そんな状況を変えるべく、特許庁が提唱する「知財経営」とは何か。特に「IPインテリジェンス」の考え方を軸に、経営戦略としての知財の可能性と企業が今取るべきアクションを、特許庁総務部企画調査課長の柳澤智也氏に聞いた。(聞き手/Diamond WEEKLY事業部 編集長 小尾拓也、嶺竜一、まとめ・撮影/嶺竜一)

イノベーション力は
先進国の中で低い水準に

――企業経営における知財戦略の重要性が今高まっています。その背景を教えてください。

柳澤 特許庁が長年、高い問題意識を持っていることの一つに、日本は欧米に比べて知的財産を含む無形資産への投資がかなり少ないという事実があります。

 知的財産は、技術、アイデアを独占できる権利である特許に代表されるように、非常に強力なビジネスツールですが、日本企業が知的財産を経営に十分活かし切れているかについては疑問があります。

 今の日本企業の大きな課題の一つに、イノベーション力の停滞があります。OECD(経済協力開発機構)が2023年に公開したデータを見ると、近年に新製品や新サービスを市場に投入した企業の割合は、日本はドイツ、フランス、英国、米国といった主要先進国と比べて最も低くなっています。新製品を投入した企業の割合はドイツが27.0%、米国が12.9%であるのに対して、日本は9.5%です。