量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はマックス・プランクが発見したある法則について抜粋してお届けする。

【量子力学の父】マックス・プランクが常識を捨てた結果見つけた驚異の法則とは?Photo: Adobe Stock

常識を捨てた量子力学の父

量子力学の父といえば、ドイツの物理学者であるマックス・プランクだ。

1900年、プランクはすべての波長領域にわたる実験結果を説明する公式として、「プランクの公式(プランクの法則)」を発見する。

プランク以前の試みでは、当時常識であった「電磁波のエネルギーは連続な値をとる」という考えに基づいて理論が構築されていた。
ここでの「連続」とは、途切れることなく大きさや強さをなめらかに変化させることができるという意味である。

たとえば、豆電球に流す電流の大きさを調整することで、豆電球の光の強さ、すなわち豆電球から放出される電磁波のエネルギーを調節できることはご存じだろう。
このとき、電流の大きさを「連続的」に調整すれば豆電球から放出される光の大きさも連続的に変化するように思える。

当時、電磁波の強さや弱さという量は連続的に変化させられる量だと考えられていた。

プランクは、この「光の強さが連続な値をとる」という常識を捨てた。
これは、公園にある滑り台のスロープをすべて階段にしてしまうくらい、当時の常識からすると大きな思考の飛躍であっただろう。

飛び飛びか、連続か

彼は「電磁波はごく小さなエネルギーを持つ粒(エネルギー量子)の集まりであるため、そのエネルギーは一つ、二つといった離れた単位(離散的な単位)でしか変化しない」とする「エネルギー量子仮説」を提唱した。

このエネルギー量子仮説に基づいて導かれた「プランクの公式」は、すべての波長領域において実験結果を説明することに成功したのだ。

エネルギー量子は、電磁波の振動数(ν)と物理定数(h)を用いて表される(hν)。
振動数とは波が一秒間に振動する回数である。
ここで使われる物理定数hは、プランク定数と呼ばれている。

「電磁波はエネルギー量子が集まって構成されている」という考えに基づくと、電磁波のエネルギーは、hνの整数倍しかとれない。
ただし、このエネルギー量子hνはとてつもなく小さい。

緑色の光の場合を考えてみよう。約100グラムの物体を一メートル持ち上げるのに必要なエネルギーを1ジュールとすると、緑色の光のエネルギー量子が持つエネルギーの大きさはその1000京分の1しかない。

私たちの日常レベルではこの小さなエネルギーの単位で一つ、二つと離散的にエネルギーが変化をしても、連続的に変化をしているようにしか感じないだろう。

物理学が大幅アップデート

しかし、エネルギーを連続的なものとするか、最小単位があり離散的なものとするかによって、数学的な扱いは「積分」から「和」へと大きく変化する。

この違いを正確に捉えたことによって、「プランクの公式」は実験結果の説明に成功したのである。

ここまでうまく実験を説明できるとなると「これは偶然ではない」と考えるのが物理学者たちだ。
プランクの飛躍を皮切りに20世紀はじめに物理学のアップデートが大きく進んだ。

(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)