「そりゃ憧れるわ…」近藤真彦が“松本隆に影響されて”選んだ初愛車が、まさかの化け物カーだったPhoto:SANKEI

作詞家・松本隆の記憶をたどると、そこにはいつも車とラジオがあった。移動する密室としての車、家族や他者と同じ時間を共有するラジオ。それらは単なる道具ではなく、時代の空気や音楽を身体に刻み込む媒介だった。個人の回想を手がかりに、彼が生きた時代の輪郭をなぞる。※本稿は、作詞家の松本 隆『書きかけの…ことばの岸辺で』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。なお、初出は『朝日新聞土曜別刷り』に連載している「書きかけの…」に掲載されました。

海辺の車で物語が動き出した
薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」

 車の話になると止まらなくなる。子どもの頃に家族と乗っていたクラウンやコロナ、出会った頃の細野(晴臣)さんが乗っていたブルーバード、自分で初めて買ったパープルのセリカ、中古のBMW、新車のポルシェ……。

 車は動く密室。ワイパーやヘッドライトも歌の印象的な小道具になる。「九月の雨」(太田裕美)のタクシーのように雨の都会を走らせたり、薬師丸ひろ子さんの「メイン・テーマ」のように海の場面に置いたりすると、そこから物語が動きだす。

 大滝詠一さんの「雨のウェンズデイ」は、「壊れかけたワーゲンのボンネットに腰かけて」と始まる。アマチュアバンド「バーンズ」でドラムを叩いていた頃、ギターの子が赤いワーゲンに乗っていた。ぶつけてへこむと、裏側から自分でがんがん叩いて直したりして。1960年代のスバルなども含めて、“カブトムシ系”の車は青春の感じがする。

 あの頃は良かった、なんて昔を美化したいわけではないけれど、60年代がいちばん良かった。発表されたばかりのビートルズのアルバムを、リアルタイムでまっさらな気持ちで聴けたから、という意味で。