18歳のある日、用事を頼まれて先輩の車で軽井沢までひとりで往復したことがある。8トラカセットのカーオーディオで流したのは「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」。ビートルズのアルバムって、出てすぐはどれも難しくてその良さがわからなかった。「サージェント・ペパーズ」もそう。でも車内でじっくり聴きこんで、初めて良いアルバムだということがわかった。
近藤真彦が憧れた
駐車場のアルピナ
80年代になって、近藤真彦の曲を手がけていた頃に乗っていたBMWアルピナB7は、公道を走るレーシングカーとでも言いたい車。フル加速すると前輪が浮く、化け物みたいな車だった。レコーディングスタジオの駐車場にとめていたらマッチがそれにあこがれて、初めて自分で買った車がアルピナだったという。レースの世界で活躍するようになった彼が車遍歴を語る上で外せない1台になったようだ。
いま乗っているのはSUVのハイブリッド車で、取り回しがよくて燃費も驚くほどいい。ガソリン代の値上がりが激しい昨今、この燃費の違いは大きい。都心だと、ちょっとおそばを食べに行っても駐車場代の方が高くなったりするし。環境のことも考えると、若い人たちの車離れが進むわけだ。
車の中で流す音楽は女性ボーカルものが多い。UKヒットチャートの音楽をiPhoneでシャッフルし、気になったものを掘り下げたりしている。海外アーティストならSZAやRAYE、日本ならYOASOBIや相対性理論、吉澤嘉代子など。韓国ドラマ「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」の主題歌を歌っていたSondiaもいい。
さまざまな車に乗り、さまざまな音楽を聴いてきたけれど、あのドライブのときにあの曲のあの詞がひらめいた、なんていうエピソードは、ちょっと浮かんでこない。詞を着想するには、何も聴かないのがいい。車でも自室でも、音楽は邪魔になるだけ。無になるのがいちばん。部屋の中をぐるぐる歩き回って、自分の中からことばを引き出すしかない。
そんな地道な時間から生まれた曲を、きょうは誰がどんな空間で聴いてくれているんだろうか。(2023年7月22日)







