
1970年代、「自立した女性」の象徴とされたユーミンこと松任谷由実。彼女の楽曲とイメージは多くの女性に夢を与えたが、その分、彼女の結婚が世間に与えた衝撃も大きかった。そんな彼女が「荒井由実」として最後にリリースしたアルバム『14番目の月』は、その時代の音楽業界が経験した、数多くの変化を象徴する重要な作品となった――。※本稿は、ラッセ・レヘトネン『ユーミンと「14番目の月」:荒井由実と女性シンガー・ソングライターの時代』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
40年以上経っても解消されない
日本の男女格差
『14番目の月』のリリースから40年以上が経ったのち、フェミニスト学者のアヤコ・カノウは、過去数十年の間に幾度となく繰り返されてきた問いを投げかけた。「日本のフェミニズムの将来に対して楽観的であるべきか、それとも悲観的であるべきか?」。
この問いは、1970年代においても重要なものであった。もしも「翔んでる女」(編集部注/自立を求める自由な女。1970年代後半の流行語)に関する盛り上がりが、多くの人々の願い通りに日本社会を変えていたのなら、2018年になってカノウがこのような問いをする必要はなかっただろう。
けれどもその後の展開は、1970年代後半に感じられた楽観主義に対して、結局のところ部分的に逆行するものとなった。
公的機関と連携したリベラル・フェミニスト団体は、法に基づいてジェンダーに基づく差別を根絶すべきであると要求した。労働力に占める女性の割合が増加した1986年には男女雇用機会均等法が施行された。しかし差別は、「総合職」と「一般職」と呼ばれる、2つの異なるキャリア・トラックの形で続いていた。