函館の海辺を走るタクシー
ラジオから自分の曲が流れる
『書きかけの…ことばの岸辺で』(松本 隆、朝日新聞出版)拡大画像表示
はっぴいえんど時代に、NHKラジオ「若いこだま」に出演したことがある。細野さんも大滝(詠一)さんもなぜか言葉数が少なくて、ぼくばかりしゃべっていたように思う。そんな彼らがのちに自分の番組を持ち、大いにしゃべるようになるからおもしろい。
専業作詞家になっていた20代半ば、あれは奈良でタクシーに乗っていたときのこと。初めて訪れた土地で、自分の書いた曲がカーラジオから流れてきて、とても不思議な感覚だった。函館の海辺を走るタクシーの車内でもそうだった。こんなに離れたところで、自分の言葉が流れている。不思議だった。湘南や熱海ののどかな海と違い、北の果ての海は牙をむいている。そんなところでも……と。
やがてヒット曲請負人として毎週毎週、通信簿を渡されるような生活になると、あのころの感慨もストレスに塗り込められていくのだけれど。
いまやAMもFMもそれほど音質に差はない。もともとラジオはリスナーとの距離が近かったが、SNS時代になってますます双方向性が強まり、距離が縮まった。「ラジオ」という器材は持っていなくても、どこにいてもエリアに関係なく、スマホやPCでラジオ番組を楽しめる。おもしろいことが起きていると思う。
ラジオ出演にも慣れ、トークなんてお手のものになったかというと……。いまだにヘトヘトです。(2025年6月7日)







